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                          辰巳ダム日誌(2008年1月) 目次
◆2008.1.4 辰巳ダムに関する今年の予定
◆2008.1.9 審査請求の意義とその後についての感想
◆2008.1.9(2) 社会資本整備審議会公共用地分科会の審議内容について
◆2008.1.25 審査請求は不受理!審査請求書は25日に国土交通大臣宛に郵送した。が、審査請求期間が60日ではなく、30日だったため、不受理となるだろう。その詳細と内容は、後で。
◆2008.1.28 社会資本整備審議会公共用地分科会の議事録(辰巳ダムについて平成19年11月31日審議)の一部不開示についての異議申立


【辰巳ダム日誌】2008.1.4 辰巳ダムに関する今年の予定
1.はじめに
 昨年11月28日、北陸地方整備局長が「犀川辰巳治水ダム建設事業」の事業認定を行った。1月に起業者である石川県が事業認定申請を行い、5月に公聴会が開催され、10月に非公開で社会資本整備審議会の意見聴取が行われ、約1ヶ月後に事業の認定を行ったものである。
 河川法による事業認可者は国土交通大臣、土地収用法による事業認定者も国土交通大臣(北陸地方整備局長に委任)である。公益性があると事業認可した本人が公益性がないと事業認定を拒否することはあり得ないと思われる。予想通り、告示内容は、起業者である石川県の主張をなぞっただけという内容であった。
 なお、同一人が判断することについて、公法学上の常識では、それぞれ別個の人格として観念するのだそうである。そして、北陸地方整備局担当者の言い分では、事業認可した河川部と対等の位置にある、建政部が事業認定の判断をするので、公正性、中立性を担保できるとのことであった。けれど、これについても、専門技術性についての疑問が残る。建政部が河川工学に関する専門技術について適正な判断能力を有しているのか疑問であるし、専門技術に関する第三者機関の審議を受けているわけでもない。この点に関しては、司法審査の場でも問題となる。
 起業者である石川県は、事業の認定を受けて、土地収用法第36条に規定する土地調書及び物件調書を作成するための測量、調査を始めた。12月17日、石川県は共有地の立ち入り調査を行ない、収用手続の準備を開始(用地の境界立会いなど補償物件の確定等)した。3月頃までに終了する予定とのことである。夏頃までに、収用委員会へ収用裁決申請し、収用委員会の審理がされる。収用委員会の裁決後、再来年の春頃までに用地の取得完了を終える予定であるとのことである。

2.事業認定の告示内容(事業を認定した理由)について
 認定者は、辰巳ダム事業による得られる利益と失われる利益を比較衡量した結果、得られる利益が上回るのでこの事業は公益性があると判断している。想定洪水量1750m3/秒が過大であるという点、余剰のダム上水貯水容量を利用すれば維持用水を確保できる点などについての言及はなく、得られる利益については石川県の主張をそのまま追認しただけである。また、失われる利益については、自然環境への影響は軽微で今後もモニタリングや適切な処置を講ずるので問題ない、特別の措置を講ずべき、法指定の文化財はない、超大規模地滑り地についても申請案では対策工不要であるとしている。マイナス面として指摘した、堆砂や永久に管理しなければならないというダム方式の問題点や大洪水の本番で機能するのかどうか疑われる穴あきダムの欠点についての言及はなかった。
 検討すればするほど、得られる利益は無いに等しく、マイナス面ばかりが出てくる「欠陥ダムの総合デパート--辰巳ダム」に対して公益性もなにもない。

3.事業認定処分についての審査請求
 当方の対応としては、辰巳の会とともに、まず、行政不服審査法第5条に基づき、処分庁の上級官庁である国土交通大臣に対して審査請求を行う。審査請求期間は、「処分があつたことを知つた日の翌日から起算して60日以内」であるので、今月27日までである。
 行政不服審査法の趣旨は、「第1条 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによつて、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」とあり、裁判所へ訴えるのとは異なり、本法による不服申立は、@費用もいらず、簡易迅速にできる、A違法だけでなく、処分の当不当についても取り上げることができる、B行政が自己反省する機会になる、などが特徴である。想定洪水量を予測し、その対策を講ずるのは、行政の専門技術的判断によるものであり、行政の裁量権の範疇である。この正当性について問題提起して、自己反省をしてもらうために、審査請求をするわけである。ところが、実際は、この法律の趣旨に反し、行政が反省するわけもない。
 この裁量の正当性について、司法の場で審理してもらえるかというとそうではない。
 「便宜裁量の場合には、仮りに、その裁量を誤って行為をしたとしても、それは、原則としては、不当な行政行為であるに止まり、その行政責任が問題となり政治批判の対象としてとりあげられることがあっても、法律的判断を使命とする裁判所の統制に服するものでないと考えてよい。」(田中二郎)裁判所は何が法か、違法か適法かを裁断するところで、行政の当不当を審理する場ではない。処分の当・不当まで判断すると憲法上の問題も生じるとのことである。したがって、この点についての検討が審査請求裁決後の課題である。
 審査請求でのたった一つの期待は、国土交通大臣が裁決するにあたり、第三者機関の公害等調整委員会の意見を聴かなければいけないという点である。社会資本整備審議会が国土交通大臣の諮問機関であるのに対し、公害等調整委員会は独立機関である。

4.取消訴訟/仮差し止め請求
 行政事件訴訟法にもとづいて事業認定処分の取り消し訴訟の出訴期間は6ヶ月である。「処分又は裁決があつたことを知つた日から6箇月を経過したときは、提起することができない。」ので出訴期限は5月27日ということになる。

5.収用委員会へ意見書の提出と口頭で意見陳述
 起業者である石川県が収用裁決申請をするのは夏頃であるので、その後である。

平成20年1月3日

【辰巳ダム日誌】2008.1.9(2) 審査請求の意義とその後についての感想
北陸地方整備局長が行った辰巳ダムの事業認定処分に対して、行政不服審査法による不服申立をする場合、上級行政庁である国土交通大臣に対して、法第5条に基いて審査請求を行うことができる。行政内部で自己反省による適正な行政運営への転換ができる最後の機会である。この後は、司法の場における審査が残される。
行政不服審査法第1条で規定された趣旨によれば、行政庁の違法又は不当な処分の両方について不服申立をすることができる。司法の場では、法にてらし、違法か適法かが審査されるだけで、当不当については審査の対象外である。不当だと裁判を起こしても却下され、審議をしてもらえない。
審査請求では、違法か適法か、あるいは当不当について明確にする必要はなく、すべての問題点を俎上にのせればよい。ここでの審査、弁明、反論を通じて争点を明確にすればよい。
事業の認定においては、改正土地収用法によって事業認定の理由が告示によって公表される。後で全く別の理由を述べるなどの理由の追完は許されないというのが最高裁の判断であるので、この理由についてだけ反論すればよいことになる。
 河川法、環境影響評価法など関連法規の違法適法(特に手続)、専門技術的判断、政策的判断についての当不当について不服申立をすることになる。審査庁である国土交通大臣が裁決で理由がないと棄却した場合、これに不服である場合は、司法の場で事業認定処分の取消訴訟をすることになる。
この場合、訴訟物は、「事業認定の行政処分の違法性」であり、仮りに河川法、環境影響評価法に違反したからといって、その違法性を認容させることは必ずしもできない。専門技術的判断、政策的判断は行政庁の自由裁量の範囲内であり、司法審査の対象外である。したがって、審査請求の内容では、審議されず、却下される可能性が高い。
行政機関の自由な政策的、専門技術的行政判断に委ねられている自由裁量行為は裁判審査の対象とならないのは原則であるが、自由裁量の限界はある。裁量権の踰越あるいは逸脱(裁量権の限界を超えた行為が行われた場合)と裁量権の濫用(裁量権を濫用した行為が行われた場合)である。この場合の行為は違法となり、裁判審査の対象となる。
行政裁量の司法審査を分類すると、裁量処分の結果に着目した実体的な審査、処分をする行政庁が行うべき事前手続に着目した手続的審査、裁量処分に至る行政庁の判断過程の合理性に着目した審査である。事業認定の取消訴訟は、行政の専門技術的判断を尊重せざるを得ないことから、判断そのものではなく、判断過程の適正さ、いわゆる「本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず、または本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価し、このことにより、、、、判断が左右されたものと認められる場合には、、、、、右判断は、、、、裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして違法となる。」である。
上記の観点から、治水、利水についての判断、自然環境、文化財、地滑り、治水ダムの問題点、穴あきダムの技術等に関して、行政の裁量判断の問題提起をしたい。
概ね100年に一回の犀川大橋地点の想定洪水が1750m3/秒に対して、過去100年間の実際の最大規模の出水は900m3/秒前後である。差違が約800m3/秒、辰巳ダムの洪水調節量が230m3/秒であるので、3個分に相当する。この辰巳ダムを造る判断は、行政庁の専門技術的行政判断であり、自由裁量の範疇であるといって、ほぼ間違いない。この判断について司法が介入することは憲法違反の疑いもある。
 しかし、公益を追及するのが行政の終局的目的である。この行政が、数百億の無駄な浪費の上に、数々の後世世代への負の遺産をもたらすことになるのを司法は黙認していていいわけはない。裁量権の壁は厚いが風穴を開けたい。
二風谷ダム、川辺川ダム、永源寺第二ダム等、住民側の連敗の流れが変化してきた。司法が無駄なダムの歯止めになりつつある。辰巳ダムも旗を挙げよう。
平成20年1月9日 中 登史紀

【辰巳ダム日誌】2008.1.9(2) 社会資本整備審議会公共用地分科会の審議内容について
11月28日、辰巳ダム事業の事業認定の告示がなされた。土地収用法第25条の2の規定により、国土交通大臣は事業の認定に関する処分を行おうとするときは、社会資本整備審議会の意見を聴き、その意見を尊重しなければならないということになっている。

土地収用法の第25条の2(社会資本整備審議会等の意見の聴取)の規定は以下のとおりである。
第25条の2 国土交通大臣は、事業の認定に関する処分を行おうとするときは、あらかじめ社会資本整備審議会の意見を聴き、その意見を尊重しなければならない。ただし、第24条第2項の縦覧期間内に前条第1項の意見書(国土交通大臣が、事業の認定をしようとする場合にあつては事業の認定をすることについて異議がある旨の意見が記載されたものに限り、事業の認定を拒否しようとする場合にあつては事業の認定をすべき旨の意見が記載されたものに限る。)の提出がなかつた場合においては、この限りでない。

処分庁が第一次的な心証形成したところで、その心証と反対の意見書が出ている場合に、社会資本整備審議会の意見を聴かねばならない。出ていない場合は、意見を聴く必要はない。今回は、処分庁の心証が事業の認定であり、事業の認定に反対の意見書が提出されていたので、審議会へ諮られたものである。

平成13年の改正のとき、中央省庁等改革の一環として条文の中の「意見尊重規定」(意見を聴く以上、尊重するのは当然)がすべて削除されたが、この条文については国会の議論を通じて特別に付け加えられた経緯がある。特別な理由がない限り、審議会の意見に従うべきであるとする立法の意志を表したものと見ることが出来る。また、公正中立な審議のため、行政OBは入れず、法曹会、マスコミ、経済界等からバランスよく、審議会委員を選定することになった。現在の委員は、以下のとおり。
 会長代理 磯部  力 東京都立大学名誉教授
 委員 岡島 成行   (社)日本環境教育フォーラム理事長
 委員 小枝 至   日産自動車(株)取締役共同会長
 会長 平井 宜雄   専修大学教授
 臨時委員 小林 重敬   横浜国立大学教授
 臨時委員 森  有子   弁護士
 臨時委員 森野 美徳   都市ジャーナリスト

宇賀克也の『行政手続と行政情報化』によれば、「社会資本整備審議会が国土交通大臣の諮問機関であるため、その中立性、公正性については、国会質疑でも問題にされたところである。そして、衆参両院の国土交通委員会において、社会資本整備審議会のうち、事業認定の審議に携わる委員については、法学界、法曹界、都市計画、環境、マスコミ、経済界等の分野からバランスよく人選するとともに、事業推進の立場にある中央省庁のOBの任命は原則として行わないこと、事業認定の審議にあたっては、当該事業に利害関係を有する委員は当該審議に関わらないようにするなど厳格な運用を行うことが附帯決議されている。また、参議院の国土交通委員会においては、社会資本整備審議会の議事要旨の公開に努めることも附帯決議されている。」(『行政手続と行政情報化』宇賀克也、有斐閣、p.206)

ここでどのような審議が行われ、事業認定にどのように反映されたのか、立法が期待した効果があったのか、を検証するために、議事録および説明のための関係文書の開示請求を行った。審議会は、事業認定処分の約1ヶ月前の10月31日に一回、実施された。

国土交通省内会議室で非公開のもとに実施された。担当は、国土交通省総合政策局総務課土地収用管理室(03-5253-8111、本間)。説明は、北陸地方整備局建政部が行ったようである。議事録の開示請求は国土交通省大臣官房広報課情報公開室へ、審議委員に説明したときに提示した文書および参考資料目録は、北陸地方整備局情報公開室へ行うことになった。開示請求書が届いてから、30日以内に開示される。まだ、受領していない。

議事要旨だけはホームページで公開されている。
「辰巳ダム建設事業の事業認定に係る社会資本整備審議会公共用地分科会の議事要旨」
http://www.hrr.mlit.go.jp/kensei/jigyounintei/giji.pdf
である。

社会資本整備審議会公共用地分科会の議事要旨によれば、委員が述べた主な意見は、7つ。事業計画の内容の審査らしきものは、そのうちの2つが文化財に関するものである。残りの5つは、内容の審査ではなく、反対があるのは説明の仕方が悪いというもので、内容は正しく公益性があるという前提に立った意見である。環境アセスメント、地滑り、想定洪水量、利水についてのコメントはない。本来、事業計画に公益性があるかどうかについて、公正中立の意見を求めるのが、第三者機関からの意見聴取の目的であるはずである。文化財に関する意見についても、どうせ壊れているんだから、さらに壊しても結果に影響を与えないという意味の意見であり、公正中立な意見とは言い難い。かなり壊れているのであるからこれ以上壊せば結果に影響を与える恐れがあるという意見も成り立つ。

実際の審議においては、議事要旨から明らかなように、内容の審議がほとんどされず、立法者の意図とは逆に、説明者(起業者を代弁した事業認定処分庁)の意見を審議委員が尊重している。

平成20年1月9日 中 登史紀

【添付】
「辰巳ダム建設事業の事業認定に係る社会資本整備審議会公共用地分科会の議事要旨」
1.開催日時平成19年10月31日(水)
2.開催場所国土交通省内会議室
3.議題犀川辰巳治水ダム建設事業の事業認定関係
4.議事要旨
国土交通省北陸地方整備局長から付議された犀川辰巳治水ダム建設事業について、公共用地分科会における審議の結果「土地収用法第20条の規定により事業の認定をすべきである、とする北陸地方整備局長の判断を相当と認める」との意見が議決された。。同意見は、社会資本整備審議会令第6条第6項及び社会資本整備審議会運営規則第8条第2項の規定に基づき、社会資本整備審議会の議決とされた。公共用地分科会における各委員の主な意見は次のとおりであった。
・今年8月に大森銀山(石見銀山)が世界遺産に登録されたが、その際、この銀山に関係する港湾に存在する景観上問題のある人工物について20年後措置するといったことを書いて登録されたと聞いている。そういった点については石川県等に指摘しておいた方がいいのではないか。
・辰巳ダムについては辰巳用水の取水口に配慮して位置選定を行っており、その点は評価していいのではないか。また、金沢市で世界遺産としての評価をする場合、辰巳用水の源流よりも、兼六園や金沢城、その周辺が中心となるが、郊外は既に市街化が相当進んでおり、その状況を考えると、辰巳ダムがあるから世界遺産の要件を満たさないということにはならないのではないか。
4,000uの土地に600人以上の共有地権者がいるというこ・辰巳ダムに関しては、わずか地権者の数から言うと反対している人が多いように見えるが、大部分の住民は賛成しとで、ていると見ていいのではないか。
・今回のように反対のある事業については、事業によりどういうメリット・デメリットがあるのか等議論をわかりやすく整理し、世の中に公表するシステムを作るなど、公共用地の取得に関して皆が納得できるような方法を考えていくといいのではないか。
・今回の事業に関しては、やはりダムに反対ということだと思う。辰巳ダムに関しては、犀川水系河川整備検討委員会、犀川水系流域委員会、その他の会合も何回も行われていて、手続がそれ相応になされていることを考えると、反対意見を考慮してもやはり認めざるを得ないのではないか。
・「100年に1度」というのは、あくまでダムの規模を説明するものであって、50年に1度、30年に1度の雨に対しても治水機能はある。こうした基本的なところの説明が十分伝わっていなかったというのはあるのではないか。
・公共事業に対する反対は、やはり、公共事業に関して国民に対するアカウンタビリティが不足しているというところからでてくるということがあり、もう少し丁寧に対応した方がいいのではないか。

【辰巳ダム日誌】2008.1.25 審査請求は不受理!
 審査請求書は25日に国土交通大臣宛に郵送した。が、審査請求期間が60日ではなく、30日だったため、不受理となるだろう。その詳細と内容は、後で。

【辰巳ダム日誌】2008.1.28 社会資本整備審議会公共用地分科会の議事録(辰巳ダムについて平成19年11月31日審議)の一部不開示についての異議申立
 認定庁が事業の認定をしようとの心証を形成した場合、法第25条の2により、社会資本整備審議会の意見を聴かなければならないことになっている(ただし、認定に反対の意見書がだされている場合に必要で、反対の意見書が出されていなければ意見聴取する必要はない。)。
 社会資本整備審議会の中に公共用地分科会が設置されており、ここで審議される。社会資本整備審議会は国土交通大臣の諮問機関であるので、どこまで公正、中立な判断がなされるのか疑問はある。一応は、経済界、法曹界などからバランス良く、委員が選ばれていることになっている。
 そして、認定庁は意見を聴くだけではなく、その意見を尊重しなければならないことになっている。法令の審議会意見尊重規定はほとんど削除された中で、特に土地収用法では付け加えられた規定である。この規定が実際のケースでどれだけ有効なのであろうか。認定庁の判断にどの程度の影響を及ぼすのであろうか。
 開示請求をして期限(30日以内)近くなって案内があり、開示通知書とコピー費用を案内した文書が届き、費用を印紙で納入して数日してやっと開示文書が届いた。約1ヶ月半を要した。
 A4用紙35枚の議事録である。はじめの2/3は認定庁の説明(事業概要とその公益性の判断)、のこりの1/3は委員の審議である。
 委員が審議した部分は、委員名とあいさつやつなぎ部分以外はすべて黒塗りで不開示であった。その理由が、公にすると、個別の発言を捉えて非難される恐れがあり、その結果、自由な議論ができないというものである。すべてというのは、あまりにも情報公開の趣旨を軽視しているというものだろう。すでに、公開されている議事要旨によれば、単に起業者に対するアドバイスのような発言もあり、このような発言でどうして非難される恐れがあるのか、不明なものまですべて不開示にされている理由がわからない。
 個別の発言を捉えて非難される恐れがあるのであれば、発言者名を黒塗りにすればすむのではないかとも考える。そのような例は多い。なぜ、すべて黒塗りにしなければ、自由な議論ができないのか、理由がわからない。
 情報公開審査会ではこれで通っているとのことであるが、理解できないので異議申立てを行った。

異議申立ての内容は以下のとおり。

平成20年1月28日
国土交通大臣 冬柴鐵三 殿
 平成20年1月7日付国広情第463号の行政文書開示決定処分について、行政不服審査法第6条に基づき、異議申し立ていたします。


1.異議申立人の氏名及び年齢又は名称並びに住所
 石川県鳳珠郡能登町中斉ワ部2、中 登史紀、60歳
2.異議申立に係る処分
 平成20年1月7日付国広情第463号の行政文書開示決定処分(開示する行政文書の名称は、社会資本整備審議会公共用地分科会(第11回)平成19年10月31日(水)開催の議事要旨全文)
3.異議申立に係る処分があつたことを知つた年月日
 平成20年1月7日(郵送で受け取ったのは、17日)
4.処分庁の教示の有無及びその内容
 通知書に期間等の記載有り
5.異議申立請求の年月日
 平成20年1月28日
6.異議申立の趣旨及び理由
 議事録全文が開示されたが、審議委員の発言については、挨拶やつなぎの言葉以外、すべて黒塗りで不開示となっている。この処分に不服があるので、行政不服審査法第6条に基づき、国土交通大臣に異議申し立てを行う。

 「行政文書開示決定通知書」の2(不開示とした部分とその理由)で示された理由は、以下のとおりである。
「文書について、公共用地分科会においては、特定の事業認定に対する紛糾案件について審議がなされ、それに伴い個人の財産権等に対する制約その他重大な影響が生ずることとなる。このため、委員等による意見の表明、交換、判断等に係る具体的な発言内容を公にすると、個別の議論を捉えて、個別の委員等に対しての非難等がされる恐れがあり、その結果、審議における公平性や客観性が失われ、審議会における委員等の自由かつ率直な意見の表明、交換等に影響を及ぼしかねず、国土交通大臣が行う事業認定等に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、法第5条第6号柱書きに規定する情報に該当するため不開示とした。」
 つまり、委員の意見が公にされないのは、「個別の議論を捉えて個別の委員等に対しての非難等がされる恐れ」があるから「委員等の自由かつ率直な意見の表明、交換等に影響を及ぼしかねず」とある。
 
 今回、受領した「議事録の開示文書」の黒塗り部分(委員の発言の、あいさつ等を除いた全文)では、つぎの2つの点で「不開示とした部分とその理由」に該当せず、理由が不明である。
 
 @単なるアドバイスまで不開示とする理由が不明
 北陸地方整備局ホームぺージ上で「議事要旨」が公開され、委員の意見が7つ公表されている。その内の第1番目の意見は、他の事例を参考にした起業者に対するアドバイスである。このような内容のアドバイスをしたことで「個別の委員等に対して非難等がされる恐れ」があるとはとても思えない。個別の委員にどういった、具体的な危険性があるのかわからない。

 A起業者(石川県)批判の意見を不開示とする理由が不明
 「議事要旨」の4,6,7番目の意見は、起業者(石川県)の説明の仕方にもうちょっと工夫をした方がいいのではないかというアドバイスであり、若干批判的ではあるが、これにしても「個別の委員等に対して非難等がされる恐れ」があるとは思えない。起業者(石川県)を批判したから、起業者(石川県)から非難等をされる恐れがあるということかもしれないが、そのような不安を抱く方が委員をなさるとも思えない。

 そもそも、「不開示とした部分とその理由」の論理自体がおかしい。
「委員等による意見の表明、交換、判断等に係る具体的な発言内容を公にすると、個別の議論を捉えて、個別の委員等に対しての非難等がされる恐れがあり、その結果、審議における公平性や客観性が失われ、審議会における委員等の自由かつ率直な意見の表明、交換等に影響を及ぼしかねず、」の理由の中の「公」を「審議会の場で公」に入れ替えると、(審議会で委員に事業を説明する)行政※から非難される恐れがあり、率直な意見の表明に影響を及ぼしかねない、つまり、審議会に対しても委員名を秘して意見を述べないと率直な意見を表明できないということである。言い換えると、現在のように、名前を秘さないで委員が出席して行う審議会の方法では、行政に非難されるようなことは言えず、公平性や客観性が失われ、率直な意見の表明に影響を及ぼしているということである。このような審議会の意見は、国土交通大臣が行う事業認定等の事務に支障をきたすことになる。
(※:ここでいう行政は、中立の立場の行政ではなく、事業認定について公益性があると第一次的心証判断を形成した北陸地方整備局)

 なぜ、このような馬鹿馬鹿しい論理になるのか。ただ、「個別の委員等に対して非難等がされるおそれ」があるというのであれば、発言者名を黒塗りすれば足りる。「一定の不都合を生じるおそれ」は、ほとんどの場合にあり、全くないケースはまれである。にもかかわらず、情報公開制度が作られたのは国民に公開することの方がより重要であるとの考えがあるからであり、一般的抽象的な漠然としたおそれがあるからすべて駄目ということにはならないはずである。

 「議事要旨」で公開されている内容では、財産権の影響ある立場の地権者に対する批判の部分についても普通にある意見であり、「不開示とした部分とその理由」で述べる理由がすべてならば、発言者名の黒塗りで十分であると考えられる。したがって、全文、開示すべきである。

【参考】「不開示情報を定める規定の中には、例えば「国の安全が害されるおそれ」「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ」「公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ」「率直な意見の交換若しくは意志決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」等々、一定の不都合が生じる「おそれ」があることを要件とするものが多く存在する。ところで、一般的に言えば、一定の情報を公開したとしてもこういった不都合を生じるおそれはおよそ存在しない、と言い切れるケースというのは、むしろ少ないのであって、情報を公開するということは、常にこういった危険と背中合わせであることを認識しなければならない。情報公開制度とは、そうであるにも関わらず、これを国民に公開することの方がより重要であるとの判断に立って設けられている制度なのである。従って、これらの条文でいう「おそれ」とは、一般的抽象的なおそれであるのでは足りず、具体的にそういった危険が生じる可能性が強いということであると解さなければならない。この法律による不開示決定は、行政手続法第二章にいう「申請に対する処分」であって、同法の定めるところにより必ず不開示の理由を付さなければならないが、この理由は、右に見た点を明らかにするものでなければならない。(『現代法律学講座6第四版行政法T(総論)改訂版』藤田宙靖、青林書院、p.169-170)

【添付】
辰巳ダム建設事業の事業認定に係る社会資本整備審議会公共用地分科会の議事要旨
1.開催日時平成19年10月31日(水)
2.開催場所国土交通省内会議室
3.議題犀川辰巳治水ダム建設事業の事業認定関係
4.議事要旨
国土交通省北陸地方整備局長から付議された犀川辰巳治水ダム建設事業について、公共用地分科会における審議の結果「土地収用法第20条の規定により事業の認定をすべきである、とする北陸地方整備局長の判断を相当と認める」との意見が議決された。同意見は、社会資本整備審議会令第6条第6項及び社会資本整備審議会運営規則第8条第2項の規定に基づき、社会資本整備審議会の議決とされた。公共用地分科会における各委員の主な意見は次のとおりであった。
・今年8月に大森銀山(石見銀山)が世界遺産に登録されたが、その際、この銀山に関係する港湾に存在する景観上問題のある人工物について20年後措置するといったことを書いて登録されたと聞いている。そういった点については石川県等に指摘しておいた方がいいのではないか。
・辰巳ダムについては辰巳用水の取水口に配慮して位置選定を行っており、その点は評価していいのではないか。また、金沢市で世界遺産としての評価をする場合、辰巳用水の源流よりも、兼六園や金沢城、その周辺が中心となるが、郊外は既に市街化が相当進んでおり、その状況を考えると、辰巳ダムがあるから世界遺産の要件を満たさないということにはならないのではないか。
・辰巳ダムに関しては、わずか4,000uの土地に600人以上の共有地権者がいるということで、地権者の数から言うと反対している人が多いように見えるが、大部分の住民は賛成しとで、ていると見ていいのではないか。
・今回のように反対のある事業については、事業によりどういうメリット・デメリットがあるのか等議論をわかりやすく整理し、世の中に公表するシステムを作るなど、公共用地の取得に関して皆が納得できるような方法を考えていくといいのではないか。
・今回の事業に関しては、やはりダムに反対ということだと思う。辰巳ダムに関しては、犀川水系河川整備検討委員会、犀川水系流域委員会、その他の会合も何回も行われていて、手続がそれ相応になされていることを考えると、反対意見を考慮してもやはり認めざるを得ないのではないか。
・「100年に1度」というのは、あくまでダムの規模を説明するものであって、50年に1度、30年に1度の雨に対しても治水機能はある。こうした基本的なところの説明が十分伝わっていなかったというのはあるのではないか。
・公共事業に対する反対は、やはり、公共事業に関して国民に対するアカウンタビリティが不足しているというところからでてくるということがあり、もう少し丁寧に対応した方がいいのではないか。





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