上水道のページ ■辰巳ダム日誌
                          辰巳ダム日誌(2006年10月) 目次
◆2006.4.22 森の都愛鳥会の本間さんによる講演「ミゾゴイと環境アセス」
◆2006.10.18 欠陥ダム中止の申し入れ、穴あきダムは流木と流砂対策が致命的欠陥


【辰巳ダム日誌】2006.4.22 森の都愛鳥会の本間さんによる講演「ミゾゴイと環境アセス」
 4月に話をお聞きしたが、まとめと報告が半年も遅れてしまった。折角、貴重な時間を割いて講演して頂いた本間さんにこの場で深謝したい。<m(__)m>
 
 今回、本間さんに環境アセスメントについて話をお聞きすることにした理由は、法で義務付けられた規模ではないが、環境保全の観点から県が実施せざるを得ない状況に追い込む論理を組み立てるための基礎的な学習のためです。本間さんは、野鳥の観察を通じて辰巳の自然環境を熟知し、辰巳で発見された絶滅危惧種であるミゾゴイの調査を10年近く行ない、ダムによる環境への影響を懸念して環境アセスメントを実施すべきと主張されておられます。本年1月には辰巳ダムの環境アセスメントを実施するように、石川県へ申し入れされています。これに対して、県は「実施しない」と回答しています。
 学習会の案内は以下のとおりでした。

辰巳ダム関連・学習交流会(第3回目)のおさそい

■調査活動真最中! 本間勝美さんからお聞きします
  ・絶滅寸前のミゾゴイの発見と保護のとりくみ  ・環境アセスメント調査を求める活動

 ◆日 時:4月22日(土) 午後1:30〜 ◆場 所:NPOセンター「あいむ」会議室(旧県議会庁舎2階)
 ◆お話 :本間勝美さん(森の都愛鳥会会長)

「ミゾゴイと環境アセス」

 9年前の春、辰巳ダム建設予定地で「ミゾゴイ」というサギの仲間の鳥が発見され、森の都愛鳥会による調査で営巣、繁殖が確認されました。この鳥は、アジアのレッドデータブックで絶滅危惧IB類、個体数が千羽未満と考えられています。夜行性で、棲息するには小川と静寂な環境が必要です。近年、低山帯の開発で繁殖に適した環境が減少しているため絶滅が心配されています。今回、連日ミゾゴイの営巣調査で多忙な中、本間さんから辰巳の自然、環境を学びます。
以上、よろしくご参加ください。

             :中 登史紀(犀川の河川整備を考える会)             :渡辺  寛(ナギの会)

 本間さんの講演の内容は以下のとおりです。

(講演の骨子)
 @環境アセスメントについて
 以前の環境アセスメントのしくみ(閣議アセス;閣議決定された「環境影響評価実施要綱」によるアセス)と新たな環境アセスメントのしくみ(環境影響評価法によるアセス)の違い。環境影響評価法による手続き。旧辰巳ダムは閣議アセスでおこなわれており、新辰巳ダムは環境影響評価法によるアセスを行うべきとの主張。その実施について石川県への働きかけの経緯と理由。
 Aミゾゴイの調査について
 辰巳の自然環境の観察および保全活動を通じてのミゾゴイ発見から、現在までの調査活動。ミゾゴイの調査を通じて、辰巳の自然環境の貴重さを再確認。
 B新辰巳ダムは環境にやさしいダムではない!
 新辰巳ダムの穴あきダムは環境にやさしくない。生態系に回復不能のダメージを与え、生態系を破壊する。

(講演の要旨)
 @環境アセスメントについて
 以前の閣議アセスでは、「自然環境保全」の評価項目が動植物や景観などに限られていたが、環境影響評価法では、生態系への評価項目が加えられた。準備書の前に、方法書を作ることが求められ、調査の内容や方法について住民から意見を聞くこと(スコーピング)が義務付けられた。以前は関係住民という制約があったが、制約がなくなり、誰でも意見書を提出できるようになった。方法書にもとづいて作成された準備書に説明会が開催され、意見者の提出について制約はない。

 ●新辰巳ダムに関して環境アセスメントを実施するべき!
 県は閣議アセスにもとづいて、昭和62年(1987)に旧辰巳ダムの環境アセスメントを実施した。平成9年6月(1997)、環境影響評価法制定、平成11年10月(1999)、環境影響評価法全面施行された。生態系への影響を評価する項目も加えられた。法律が制定された上、新辰巳ダムは場所が変わり、設計変更もしたのだから、環境アセスメントを実施するべきである。

 中が補記:2006年1月17日、森の都愛鳥会(代表:本間勝美)が「辰巳ダム環境アセスメント」の実施の要望
 森の都愛鳥会は、新構想辰巳ダムが当初計画より上流に移動したことに伴い、新たな環境アセスの必要性を訴え、辰巳ダム環境アセスメントの実施を要望した。これに対して石川県は昭和62年(1987)環境アセスメントをすでに実施している。法で求められる対象事業ではない(第一種事業100ha以上、第二種事業100〜75ha)ことを理由に、新規に環境アセスメントを実施する考えはないと回答した。
 
 旧辰巳ダムの貯水面積は51ha、新辰巳ダムの貯水面積は45haである。

 奄美大島のゴルフ場建設反対運動訴訟で、絶滅危惧種のアマミクロウサギを原告に加えて全国的に注目された。全国の関心がないと力が発揮できない。辰巳ダムでもミゾゴイがそのような存在にできないかと考えている。

 Aミゾゴイの調査について
 森の都愛鳥会のメンバーが約10年ほど前に辰巳の森でミゾゴイを見つけた(写真撮影)。ミゾゴイは、東南アジアに生息し、営巣は春から夏にかけて日本だけで行う。個体数は1000羽未満で絶滅が危惧されている。
森の都愛鳥会は即時、このミゾゴイの営巣を妨げることのないようにするため、林道工事やトンネル工事の中止を求める要望書を県辰巳ダム事務所へ提出した。すぐに工事は中止され、ミゾゴイの調査が始まった。
森の都愛鳥会がミゾゴイの声の録音に成功し、このテープをミゾゴイの専門家である、埼玉県森林総合研究所の川上さんのところへ送ったところ、ミゾゴイと確認された。これを契機に、川上さんらとともに3年間の調査を行い、3つがいが営巣していることがわかった。
ボー、ボーと鳴く。今年は4月10日から調査を始めたが、まだ鳴いていない。去年は最悪で、今年、帰ってくるか心配である。トンネル工事を始めてから、だんだんいなくなった。夜間工事で車の照明等が影響しているのではないか。営巣のために重要なエリアだったのではないか。この工事がミゾゴイを条件の悪いエリアに追いやっているのでないか。

 ●ミゾゴイの希少性は!
 アジア版鳥類レッドデータブックに記された日本に生息する絶滅危惧種は、32種。内訳は、以下のとおり。
 【絶滅危惧TA類】 ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種 
 【絶滅危惧TB類】 A類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種
 【絶滅危惧U類】  絶滅の危険が増大している種
 上から、2種、8種、22種である。
 【TA類】は、ノグチゲラ、オオトラツグミ。【TB類】は、コウノトリ、ヤンバルクイナ、シマフクロウなどで8種である。ミゾゴイはこの仲間であり、シマフクロウなどともに、個体数250-999であり、最も少ない種の一つである。
 (野鳥2001年6月号、No.643参照)

 ミゾゴイの重要な絶滅要因として、生息地の消失/悪化があげられているが、辰巳ダムの場合もこれがあてはまる。

 ●辰巳地区は良好で貴重な自然環境(里山)である
 調査を通じて、県外から専門家が訪れているが、都心から約10kmの近郊にこのような自然環境が残っていることに、異口同音に感動している。具体的には、ミゾゴイのほかに、サシバ2つがいがあげられる。国の事業として荒川のビオトープが有名で、当初30haのビオトープが造られ、これにサシバが生息可能な150haの区域が追加された。10年前のことであるが、いまだにサシバは来ない。このように、費用と労力をかけても簡単には自然を取り戻すことができない。2つがいも生息しているのは、それだけ豊かで多様な生態系であるということの証明である。
 生態系は、汚染されていない水、空気、土に加え、太陽光があり、生産者である植物、第一次消費者(植物をたべる虫など)、第二次消費者(虫などを食べるカエルなど)、第三次消費者(カエルを食べるへびなど)、高次消費者(へびを食べる猛禽類など)からなりたつピラミッドで説明される。ピラミッドの底辺の動植物が悪影響を受けて少なくなると、上位の生物がすめなくなる。
 ダム工事によって、サシバ、ハチクマなどが生息している全域にわたって、餌場が破壊され、餌が減る。サシバ、ハチクマなどの個体を守るためには、生態系の全体を守る必要がある。

 中が補記:サシバの特徴は、全くの自然林よりも人の手の入った里山を好むようです。「サシバは里山の上位捕食者である猛禽類であり、近年個体数が減少しており、保全のための知識が必要とされています。これまでの研究で里山のサシバは、繁殖場所として田と雑木林が入り組んでいる谷津田環境を好むことがわかっています。」(酒井すみれ氏)

 B新辰巳ダム(穴あきダム)は環境にやさしいダムではない!
 県は、貯水しないので水質悪化もなく、ダム湖の河床や山腹斜面の動植物への影響も少なく、自然環境への負荷が小さい、環境にやさしいダムであると説明している。しかし、誰が考えても簡単にわかることだが、洪水の時にダムに一時的に貯留して河床や山腹が数時間も水没すれば、生息動植物はほとんど死滅するのではないか、水中で生きている動植物も洪水吐きに吸い込まれ、水流と水圧でやられてしまうだろう。洪水が終わって動植物がやっと戻ったと思ったら、つぎの洪水でまたやられる。年に数回も繰り返されたら、全滅だろう。これが永久に繰り返される。明らかに環境にダメージを与えるので、どこが環境にやさしいダムか?
 例えば、瀬領地区の下にある、石切り場のコウモリ(5種類確認)は全滅するだろう。

 ●環境にやさしいどころか、環境を破壊するダム
 水没を繰り返す穴あきダムは、生態系への影響が最悪ではないか。環境にやさしいダムではなく、動植物の殺戮を繰り返し、生態を破壊する、環境を破壊するダムである。

注記:メモ及び録音したテープをもとに、法律等の内容を確認し、明らかに食い違いがあるものについては修正あるいは削除し、表現も適宜加除してあり、今回のテーマから少し遠いと判断した内容は掲載していないなど、内容全てについての責任は、中 登史紀にある。




【辰巳ダム日誌】2006.10.18 欠陥ダム中止の申し入れ、穴あきダムは流木と流砂対策が致命的欠陥
 今年の初めから、数回にわたり実施された、新辰巳ダムのデザイン検討委員会の審議を通じて、ほぼ最終的なダムがの姿が明確になった。島根県の益田川ダムについで全国で第二例目となる「治水専用ダム」、いわゆる「穴あきダム」となる。ナギの会の渡辺寛氏が情報公開請求で必要な資料を引き出してくれ、その上、模型まで模型まで作ったので、穴あきダムなるものの正体が見えてきた。エンジニアの立場から、一言、県へ釘をさしておく必要を感じたので、辰巳の会などとともに、県へ申し入れをおこなった。申し入れ書については、ナギの会のホームページに掲載されている。

 穴あきダムについてエンジニアの視点から、県担当者に指摘したことを含め、考え方をまとめた。

穴あきダム(治水専用ダム)について ――新辰巳ダムの構造から考える――

(新辰巳ダムは穴あきダム)
 常時はダムを空にしておき、上流からの水流はそのまま下流へ流し続ける、洪水時には下流への水流が大きくならないようにダムで貯留し、一部を放流する。水を貯めないので水質の悪化も起きず、ダム湖となるのは洪水の一時だけであるので周囲の動植物や生態に負担をかけない、自然環境にやさしいダムであると石川県が主張する「通称:穴あきダム」新辰巳ダムの全貌があきらかになった。

(環境にやさしい「穴あきダム」の構造が明瞭となった)
 新辰巳ダムの概要については、従来から示されていたが、環境にやさしいか否かに関わる、穴の構造等が明らかとなっていなかった。本年に入り、石川県が学識経験者等に委嘱し構成した「辰巳ダムデザイン検討委員会」の審議と並行して、構造が検討され、水理模型実験結果も交え、最終案に近い形が示された。委員会は、これらの成果に検討を加え、数回の審議を重ねた上で、辰巳ダムのデザインに関して提言書(案)(平成18年10月4日)をまとめた。提言書(案)の主たる内容はデザインにかかわるもので、穴あきダムの構造については言及してはいないが、参考資料として、水理模型実験結果、最終案と見られる、放流する穴等の構造を記した図なども添付されている。これを見ると、新辰巳ダムで強調されている、環境にやさしいダムの構造とはいかなるものかが明瞭となってきた。

(歴史と伝統に配慮したデザインのダム)
 ところで、石川県がダムデザインに関して委員会を組織して検討したのは、「歴史環境の保全」の観点からである。従来、「自然環境の保全」の観点から、環境にやさしい、負担をかけないダムであると説明してきたが、これに加え、歴史と伝統に配慮したダムであると県民に説明するためである。その理由として、特別名称兼六園に水を供給している辰巳用水取水口地点にあるので、ダム本体のデザインや周辺の修景の検討することが必要であることをあげている。
このダムのデザインコンセプトは「自然と歴史に触れ合うダム」とし、これを実現するためのデザイン基本方針はつぎの3項目「1.自然の摂理に適った大局デザイン」、「2.人との触れ合いを考慮したデザイン」、「3.時の流れを意識したデザイン」をあげている。「自然の摂理に適ったデザイン」とするために、水理模型実験を行い、水理模型実験による水の表情をふまえて水の科学に則った形状・構造になるようにデザインしたとある。

(水の科学に適っていない、デザイン基本方針に反したダム)
 筆者は、この水理模型実験の条件が実際の洪水を反映しておらず、「自然の摂理に適っておらず、水の科学にも則っていない」、「デザイン基本方針」に反していることを指摘している。

(穴あきダムの最終的な形)
 常時流し続ける、環境にやさしいダムは最終的にはどのような形になったのであろうか。渡辺寛氏が作った模型がわかりやすい。「ナギの会のホームページ」の「辰巳ダムはとんでもない形――これのどこが環境に優しいの…?!――」を見ればわかる。
(http://nagi.popolo.org/dam/data/shin_tatumi/design/tondemo.htm)
 ポイントは、「小さな穴」(上段に1穴、下段に2.9m角が2穴)と「小さな副ダム」である。辰巳ダム(高さ51m)の場合、特殊な条件として、ダム直下に辰巳用水の取水口があるので、用水への安定的な水供給のために、さらに「小さな穴」(幅3m×高1m)が追加されている。
 「小さな穴」の役割は、上流の水流が大きくなった際にも、下流への水流が大きくならないように絞るためである。
 「小さな副ダム」の役割は、「小さな穴」から出てくる水流の勢いを弱めて下流の河床の掘り起こしを防ぐためである。

(県は実験を根拠に小さな穴は機能すると説明)
 「小さな穴」は、ダムの高さに比較して小さいばかりではなく、根や枝葉の付いた、穴の大きさの何倍も大きな流木が大量に流れ込めば、アッと言う間に閉塞してしまうだろう。この懸念に対して、県は委託して行った「水理模型実験結果」に基づいて放流能力の減少はないと説明している。
 実験とは、以下のようなものである。
 実物の縮小模型で流木を模したマッチ棒のような物を多数流し、小さな穴の口にスクリーンを設置しない例とスクリーンを設置した例について、放流流量を測っている。スクリーンを設置しない例では、放流流量が24%低下したが、スクリーンを設置した例では、放流流量がほとんど低下しなかった、だからスクリーンを設置すれば問題は解決すると説明している。

(実験の問題点は2つ)
 この実験の問題点を2つ指摘できる。第1点は、流木の量/形状を犀川の実態調査から設定したのではないのではないか、第2点目は、流木と流砂を同時に流して実験しておらず実際の洪水とは異なることである。県は、全国で一般的な考え方/方法によったもので流木の形状や量の根拠は犀川の実態調査によるものではないと説明している。「デザイン検討委員会」の議論の中で委員が指摘したように、流木はマッチ棒形状ではなく、根や枝葉の付いた流木が流れてくる。大量に流れてくればスクリーンの周囲に積み重なり詰まる、詰まれば土砂も堆積し閉塞が進んで完全に詰まってしまうだろう。

(詰まらないかという疑問に県は詰まると答えている!)
 ダム本体に小さな穴が複数付いているだけであり、洪水時に詰まったらどうなるのかという疑問に対して、県は、詰まらない(=詰まらないように工夫する)としか、答えていない。何が流れてくるかわからない洪水時に小さな穴が詰まるだろうと想起することは、判断力の乏しい子供でもわかる問題である。県の詰まらないという説明はこうだ。「小さな穴が詰まらないように上流の口にスクリーンという鉄製の網を付けるから穴はつまらないのです。」。馬鹿馬鹿しい答えである。確かに小さな穴は詰まらないだろう。その口のスクリーンのところで詰まるからである。確かに「小さな穴が詰まらない」のであるが、詰まることには違いなく、詰まるのである。このような説明でも、ほとんどの県民は誤魔化される(現実に、県職員が新聞記者に説明し、記者はそのまま、記事にしていた。)

(穴あきダムのもう一つの欠陥)
 穴あきダムのもう一つの欠陥は本体の前部の「小さな副ダム」である。従来のダムも持っている施設であるが、条件が異なる。従来の貯水ダムでは、堆砂の後の清水が流れるが、穴あきダムでは土砂や岩石の混入した濁水が流れる。条件次第ではアッと言う間に埋没する可能性がある。この懸念に対して、水理模型実験では何も語っていない。副ダムが埋没すれば、辰巳用水取り入れ口への低水放流口も閉塞する。

(山腹崩壊があれば)
 数十年前の例であるが、となりの富山県の称名川で豪雨があり、河床が一気に10m近く上昇したことがある。川の両岸の山腹が豪雨で広範囲に崩壊したためである。犀川水系では、これほどの崩壊はないだろうと考えられるが、犀川上流は急傾斜面であり、その崩壊のため、自然のダム湖がときどき発生している。このような事態が発生する豪雨の際には、小さな穴(2.9m角)が簡単に詰まってしまうだろうことは容易に想像できる。このような山腹崩壊に至らない、矮小な問題と考えられる流木や流砂の問題もほとんど解決できそうにないのである。

(豪雨災害に対して致命的な欠陥商品)
 短的に言えば、「流木」、「流砂」に対しての適当な処置がなく、穴あきダムの致命的な欠陥であるということである。小規模で影響する区域が小さい、中小規模の洪水で流木や流砂が少ない、あるいは流域の地形地質等から流木や流砂が明らかに少ないなどの特別の条件がつけば、その有効性も想起できるが、想像を絶するような豪雨災害に対する防災施設としては致命的な欠陥商品である。

(堆砂は少なくない?)
 想像するに、小さな洪水でも、度々貯水が発生するかもしれない。貯水すれば、ダムの上流に堆砂が進む。ダム下流の副ダムも土砂で埋没の可能性がある。想像以上に堆砂が進み、管理費が嵩むことも予想される。

(環境にやさしいダムから環境に厳しいダムへ)
 ここまで、考えてみると、
 「環境にやさしいダム」ではなく、「我が身(ダム本体)に厳しいダム」であることがわかってきた。つぎのシナリオは、
 「我が身に厳しいダム」→「我が身を守るためのダム」→「環境に厳しいダム」
 へと進まざるを得なくなりそうである。
 我が身を守るための流木対策は、ダムの上流に流木止めを造ることである。先進事例の益田川ダムでは、ダム本体の上流に流木止めのための「スリット堰(コンクリート製)」を持っている。上流に、複数のスリット堰やスクリーン堰があれば、もっと効果的だろう。さらに支流ごとにこれらの施設があれば万全である。これらの施設に至る管理通路を設けて、常時に取り除く世話をすればよい。
また、同様に堆砂についてもダム上流に堆砂止めを築造して、常時管理すれば、穴あきダムの管理上、大変有効である。かくして、穴あきダムの上流に、多数の流木止め工、堆砂工と管理道路が延々と設置されることになる。いわば、「環境に厳しいダム」が出来上がる。

(公金の浪費+環境破壊)
 住民監視を怠れば、行政は自らの失態を隠すために失態を重ね、上記のようなシナリオが現実となる。人や金銭等の公的資源の浪費の上に、環境破壊などを上乗せされるような事態になれば、後世の子孫に申し訳ない。
 いわずもがなであるが、自然環境の保全、歴史環境の保全の観点から、最良策はいうまでもなく、この不要なダムの中止であるが、ここでは言及しない。

(2006.10.19 犀川の河川整備を考える会 中 登史紀)


 

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