東京都きぬた浄水場の緩速濾過施設の運転管理に対する問題点指摘!(平成16年3月18日)
当方のホームページで紹介した東京都の砧浄水場、境浄水場の緩速濾過浄水処理の見学記の内容について、S大学のN教授から、記事ごとに詳細な指摘を受けた。そのほとんどが、運転管理の誤り、緩速濾過が生物処理であることを理解していないことによる運転管理による誤りであるという指摘である。

いくつかの緩速濾過浄水処理施設の見学をしているが、東京都の運転管理に疑問もあったが、それほど問題点があるとは考えていなかった。N教授の指摘では、ほとんど誤りであるということである。根本的に誤っているとの指摘であり、これほどの指摘が正しいのであれば、東京都としては、今までは間違っていました、ご指摘のように直します、とは到底、言えないだろう。となると、、、、、

現在の浄水処理の主流は、急速濾過法という、物理化学処理である。簡単にいうと、取水した水を濾して塩素消毒したものである。東京都の水も、大半の水はこの浄水処理法によっている。日本全国でも同様である。砂の層で濾すのは同じであるが、砂の表面の微生物層のろ過を期待する、生物による処理法である、緩速濾過法は小規模な施設は数千カ所あるが、量的には小さな割合しか、占めていない。戦前の主流の処理法であったこともあり、古い浄水処理法というイメージもある。

現在では、水道技術者の多くは、急速濾過法に関する経験やノウハウがあっても、緩速濾過法に関する技術や知識はほとんどない。悪いことに、生物処理は、水温、含有成分が異なる原水質など自然環境の影響を受けやすい。各浄水場はそれぞれ異なる条件におかれ、一律のマニュアル運転操作になじみにくい。それが運転操作が面倒という、イメージにつながり、管理者から人気がなくなる。一方、物理化学処理であれば、自然環境からの影響が小さく、全国一律のマニュアルであったも適用は可能な面がある。決められた通りにやりましたといえば、言い訳もきく。管理者にとっては好都合である。

緩速濾過法では運転操作を誤ると、大量の生物が配水管に流れ込み、各家庭の蛇口から出てくることになる。小さな虫やエビが出てきて、大騒ぎになることがある。緩速濾過法の浄水場管理者の悩みの種になる。N教授は、正しい運転をすれば、そんなことにはならない、「えさのないところへ生物はいかない」と説明する。ところが、管理者は、出ないように、「柵」をつくりたがる。頑丈で隙間を小さくして絶対に通り抜けできない「柵」をつくる。もしも通り抜けたとしても、管理する者としてやるだけのことはやったのだから、しょうがない、という言い訳もできる。ところが、この先生は、そんな「柵」がなくてもエサがないからでない。「柵」はいらないと指摘する。その理屈がどうしてもわからない。そして、延々と試行錯誤が続き、その内に、頭で計算できて、土木屋(
注:昔は上水道は土木工学の一部であり、土木屋が関与することが多かった!当方も、土木屋で水道技術者。)にもわかる、物理化学処理になる。というように、当方は理解している。
以下に、N教授の指摘を載せる。

注)先生からの文章は、メイルで当方にいただいたもので、書き下ろして文章の推敲はなされておりません。脱字誤字等はそのまま載せてあります。(先生の了解を得ました。)
東京都以外の固有名詞はご迷惑がかかることを配慮して仮名としました。以下、赤字が先生の指摘されている意見です。
東京都砧浄水場の緩速ろ過施設の見学記
期日: 平成14年1月28日(月)午後1時〜3時
→冬なので、動物活性が小さい時期です。

案内者:O砧浄水場長(専門は水質)
→生物処理の浄水場ですが、生物屋がいません。

敷地面積:10.3ha
→資材置き場の面積の入っているのかな。

使用開始:昭和3年
→76年間も建設した当時のまま。さすが、英国方式。76年間の維持管理経費も比べたらどうだろう。

東京都の浄水供給能力は現在、全体で日量約700万m3である。この内、緩速ろ過施設
は、境(31.5万m3)、砧(11.5万m3)、砧下(7万m3)の合計50万m3で全体に対して約 7%である。
 実際の給水量は、全体で日量約500万m3である。砧と砧下は、両方で日量約7万m3で ある。
→砧(11.5万m3)、砧下(7万m3)の合計は18.5万m3なのに、両方で日量約7万m3 しか給水していない。良質な水道水なのにつくろうとしない。つまり、ろ過速度が遅すぎます。高度処理などにお金をかけたのに、それを使わないといけない。原価消却を済んだから、使わなくても良い。それなら、適切なろ過速度にすれば良いのに、ろ過速度が遅すぎ、悪い水質のろ過水をつくっている。後で解説します。緩速ろ過について理解していない。

砧浄水場の緩速ろ過施設の現状
 6池のうち、5池が稼働。1池は池の改修のために、空になっていた。
→改修は、必用ない工事です。


遮光ネットを張った緩速ろ過池
左が改良型の遮光ネット、右が従来型の遮光ネット
→私が以前、見学したとき、ろ過池に直接に塩素を添加していました。驚いて、忠告しました。生物処理についてわかっていない。その後遮光シートを被せて、調子が良いと言っていました。砂ろ過された原水を遮光して砂ろ過するとは、何事? 既に自然と緩速砂ろ過した水を覆って砂ろ過とは何もしないのと同じと指摘しました。その後、やはり、少しは藻を繁殖させた方が良いと遮光ネットにしました。

維持管理要員

 砧、砧下浄水場あわせて、83名(職員73、嘱託10)である。管理室は3交代勤務体制で5班構成である。2箇所の浄水場で30人となる。各分野の技術職員、事務職員などが約50名である。
→何故、そのように多数の職員が必用か理解に苦しむ。緩速ろ過処理は、自然がしている。T市のK浄水場とW浄水場の2カ所は、土・日は全てを1名でしている。夜間も一人である。何名か常駐しているが、それは、急速ろ過の浄水場の維持管理をテレメトリーでしているために数名が常駐している。緩速系の2カ所の浄水場の維持管理は、たった1名です。私が見学に人を連れて行くと、K浄水場の鍵を貸してくださり、自由に見学してくださいです。W浄水場は、365日朝9時から5時まで、常時開放しています。それと比べて、何という事でしょうか。削りとり作業は、東京都も外部へ委託しています。それなら、何のための、人員が必要なのかわかりません。


砂の削り取り作業

 月に2回の削り取りの作業をしたときもある。
→原水が伏流水の場合、一切目詰まりをしません。濾過速度が遅すぎるのでいろいろ障害がでてきます。遅いとろ過池での酸素の日変化が大きくなり、酸素不足になりやすい。鍋屋上野では、ろ過池でプランクトンが繁殖し、ろ過水の出てきて。そこで、ろ過速度を早くするように改良した。東京都の境浄水場も遅すぎて、問題であった。

緩速ろ過池の管理で、この作業に最も人手がかかる。
→外部委託です。

しかし、維持管理の改良や工夫の結果、現在、砂の削り取りは100日に1回くらいであ
る。削り取りの作業は、外部へ委託している。1池(2,690m2)あたりのおおよその委
託費用は、約100万円である。
→某市の780m2のろ過池の作業は、20万円程度です。とんでもなく、高いです。

作業に2日、要する。
→これがいけない。緩速ろ過池は、常時水を張っていないといけない。水を抜いてし まうと、砂層の中に生息していた生物が驚いて砂層の下へ逃げてしまい、生物漏出の 原因になる。できるだけ短時間でしないといけない。水を抜くのも、砂層表面下すぐ 下で止めないといけない。
 N市のN浄水場は3日間かけていました。その結果、ミミズなどが砂層を通過してしまい問題になっていました。T市の場合、砂面から水が抜けたら、直ぐに削りとりをし、削りとり終了後、直ぐに水を張り戻す。未ろ水が無くなっている時間は数時間です。


現在のところ、機械による削り取りの作業は考えていない。
→以前、水道局の知人から頼まれて、ロンドンの削りとり機械を調べて、東京都に知らせましたが。安すぎるとのクレイムが付きました。東京都はお金を使いたいのです。

砂削り取り後の生物膜の復旧について

 濁度、一般細菌などがインジケーターである。池流出水を高感度濁度計で観察し、判断している(例えば、0.1→0.01)。3日から1週間で生物膜が回復する。捨て水を止める。
→削り取りを2日間かけているので、どうしても回復が遅すぎる。KのK浄水場は、削りとり後、直ぐに、半日以内に使い初めている。(しかし、K浄水場は、システム設計が間違っている。濁りがくると、PACを使用することになっているため、その時には、ろ過池で繁殖した生物が砂層を通過してしまう。PACは生物毒で、毒の水がくれば、生物は毒が無かった水の方、つまりろ過水の方に必死で逃げて行きます。)

 クリプト問題がおきてから、維持管理に関する考えあるいは対応が変化した。表流水を取水源にしているところは特に配慮が必要だろう。
野生動物や家畜などに起因するので、人為的な汚染がほとんど無いと考えられる水源であっても警戒は必要である。中小規模の施設の管理が問題である。緩速ろ過を適切に運転すれば、2log〜3log(99%〜99.9%)除去できる。
→東京都は適切に運転していません。自然の緩速ろ過の鳥取市の伏流水の濁度は、平均で0.005度です。

膜処理では、4log〜6logのレベルであり、信頼性が高い。
→膜は、何が溶出するか不明です。検出限界以下の物質による慢性毒が問題です。新しい技術に関して、慎重にしないといけない。

砂の打ってがえし

 補砂の際は、必ず、打ってがえしを行う。下に新しい砂を入れる。
→これは、適切に管理している場合は、必用ない作業です。高崎の場合、建設し数十年し、砂層の中がどうか調べてところ、下層は少しも汚れていなかった。東京都のように、2日間もかける削り取りをすると、どうしても砂層深部に汚れが侵入してしまう。
 自然の森林土壌は何もしていないです。


緩速ろ過の問題点
 生物の漏洩が心配である。
→東京都が生物処理をまるっきり理解していないので、それを日本各地の水道関係者が受け売りでダメと言うことになっている。

急速ろ過と異なり、ろ過池の中に生物を繁殖させて浄水処理を行う方法であるから、この点の配慮が必要となる。
→生物の立場で考えては一切ないのが東京都です。困ったものです。

藻類の発生とこれに伴うユスリカ発生によるトラブル
 昭和50年〜昭和60年ころ、ろ過池で藻類が大発生した。これを餌とするのか、ユスリカも繁殖し、大量の成虫が蚊柱をつくる(刺さない。)ので周辺の住民に被害をもたらした。対策のため、ろ過池へ塩素を投入したり、殺虫灯を設置したりした。また、ライフサイクルを調べたところ、2週間くらいで孵化することがわかったので、ユスリカ対策として2週間に1回の割合で砂の削り取りをしたこともあった。それまでは、藻類の発生などで閉塞することもあり、30日に1回程度の砂の削り取りを行っていた。
 
→ろ過速度が遅いので、酸素不足になり、悪い水もできていた。また越流管がコンクリートで塞がれているために、浮上した藻を自動排出できない。藻と一緒にユスリカ幼虫も排出できるのに、できない。そこで、何とか越流管を改修したらと進言したがしようとしなかった。

 ユスリカの餌と考えられる、藻類の繁殖を抑える対策をすれば、ユスリカの発生を抑えることができるのではないかと考え、平成に入ってから、光を抑える「遮光ネット」を採用することにした。
→最初は、カンバスシートでした。完全遮光を考えました。その後、私の指摘もあり、遮光ネットにしました。

わさび栽培の時に、日光を制限するときに利用していたネットである。これにより、藻類の発生がほとんど無くなり、その結果、ユスリカの発生も相当に抑えることができるようになった。平成7年からは、全部の池に遮光ネットを設置するようになった。藻類の大繁殖によるろ過池の閉塞がなくなり、もともと原水の濁度がほとんどないので、ろ過池は閉塞しにくい。現在、砂の削り取りは100日に1回くらいである。
→生物による還元物質などの酸化分解。難分解性物質の動物による分解をするということを理解していない。その可能性などを調べようとしない。

ヨコエビの発生

 遮光ネットを張り、藻類の発生を抑えることにより、これを餌としていたのではないかと考えたユスリカの発生を抑えることができた。そして、砂の削り取りも100日に一回程度ですむようになった。ところが、今度は、ヨコエビが発生するようになった。
 透明の小さなプラスチックの水槽の中のヨコエビを見せてもらった。体長5mmくらいのエビである。我々が大量に食べているオキアミの透明なもので食べるとおいしそうな奴である。食べても害はないだろう。
 ろ過池に潜るので、砂の削り取りをしても除去できない。調査したところ、ろ過開始から、約70日を経過した頃から、急激に増加する。そのため、砂の削り取りを100日に1回から、50日に1回に変更した時期もある。砂の削り取り作業の際に、池に塩素水をはることでヨコエビを駆除する方法をとったところ、問題は解決した。池の出口に設置した「観測ネット」(1池ごとに10日に1回観測)で捕獲したヨコエビが、塩素対策を施した池で26万から1万に激減した。
→塩素対策を施した池:→生物を殺して、生物処理をするという。とんでもない事を、また東京都はしている。
→緩速ろ過池のろ過速度が遅いので、砂層内を動物が上下してしまう。適切なろ過速度。本当は、5mでなく砧の場合は10m以上の速度が良いと思われる。一定の速度でろ過をすれば、生物の漏出などが無くなる。動物はエサがくるところしか居ません。


鉄・マンガンに関するトラブル

 原水のマンガン濃度は約0.03mg/l程度である。ろ過した水を塩素消毒して、配水池に貯留しているが、この間にマンガンと塩素が反応する。空にした配水池を見ると、壁にベットリ、酸化マンガンが付着している。
→酸素付与という機能が藻にある。藻を積極的に繁殖させ、繁殖した藻を積極的の取り除くようにすれば、原水中のマンガンは鉄も効果的に除ける。しかし、この考えをしようとしないのが東京都。

サンプリング管もつまる。何とかしたいと考えている。配水管内を通じたトラブルは無い。マンガンの問題はそんなに大きくないと考えている。鉄管の錆の方が問題かもしれない。また、給水は、長沢浄水場(急速ろ過で除鉄、除マンガンしている。)から来る日量約2万トンの水とブレンドしてあわせて6-7万トンとしている。
→まてよ、合わせて6−7万トン。最初の説明では、砧と砧下は、両方で日量約7万m3である。それなら、緩速ろ過による水は更に少ないことになる。


高度処理(オゾン+活性炭)の位置

 大阪方式と東京方式の違いがある。ろ過池の前に置く方式が「東京方式」であり、ろ過池の後に置く方式が「大阪方式」である。東京方式は、生物の漏洩に強く配慮したためである。朝霞浄水場の改良では2段ろ過方式をとり、ろ過池の後で高度処理をし、さらに後ろ過をする。
→オフレコの情報:生物活性炭で、アセルス(ヨコエビ)が大発生してその糞塊が漏出して困っている。生物処理はやはりダメかです。とんでもない。

浄水方式について
 砧の浄水方式については、取水の制約があるので急速ろ過への移行は考えられない。考えられるとしたら、緩速ろ過と膜処理のいずれかの選択だろう。
→安全でおいしい水は、緩速ろ過しかありません。

膜処理について
 膜処理の特徴は、中小規模の施設に適合しており、すでに日本で約300箇所の施設に導入されている。最大規模の施設は日量約15,000m3のものである。面積が少ないてよい。機械的にやってくれるので、技術者がいらない。
→冗談でない。専門に技術者が必用です。それは委託先ですが。水道システム全体を考えないといけない。

ランニングコストが少なくて済む。短所は、イニシャルコストがかかり、スケールメリットが働かない。膜の寿命が問題で、定期的に取り替える必要がある。
→とんでもない、80年のランニングコストと、膜のコストを考えてください。とんでもない違いがあります。水道施設は10年単位ではありません。

発生汚泥の処置
 従来は、天日乾燥をしていた。藻類が大量に発生していたときには、天日乾燥時に悪臭が発生し、周辺の住民から苦情がでていた。
→天日乾燥はする必用はありません。急速ろ過の産業廃棄物と比べる必用があるのでは。
 現在では、藻類の発生もなく、伏流水取水のため、土砂類の混入も少ないので、汚泥はあまり発生しない。そのため、沈殿池で、わずかに発生する汚泥はバキューム車で多摩川浄水場へ移送している。

震災対策
 現在、砧浄水場の管理棟兼浄水ポンプ場を建設中である。耐震診断の結果、必要と判断されたものである。砧下浄水場の改築については、未定である。緩速ろ過池については、砧、砧下のいずれも、壁厚が厚く、しっかりしているので、耐震対策は不要であると判断された。写真で見られるように、レンガづくりである。
→昔は100年でも大丈夫という姿勢があった。つくっては壊しではない。


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朝日新聞夕刊2月18日に渡辺論説委員がどこか取材したいと問い合わせがあったので、紹介し記事にしてくれました。広島県三原市が全面的に緩速ろ過にしました。
また、Y市水道局がペットボトルを売り出したので驚いて、投稿したのが直言です。

G県M市のS浄水場では、伏流水を取水し、前塩素処理をして緩速ろ過処理で良い水と言っています。とんでもないことです。O市のR浄水場は以前は前塩素処理で緩速ろ過でしたが、前塩素処理を中止しました。S市は、まだ前塩素処理をして緩速ろ過です。KのA浄水場も前塩素処理して緩速ろ過です。N市Mも前塩素して緩速ろ過。全て、東京都の間違いを見習っています。困ったものです。

境浄水場見学記きぬた浄水場見学記
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