金沢洪水える 32
by Toshiki NAKA



いまさら辰巳ダムが必要でないとは言えない!

――有史以来発生したことのないような洪水量を想定する理由――

 想定洪水量1750m3/秒だから辰巳ダムが必要なのではなく、いまさら辰巳ダムが必要でないと言えないので、有史以来発生したことのないような洪水量1750m3/秒を想定せざるをえないのである。
約1600字

 石川県が想定した計画降雨の規模は100年確率、2日雨量314mmである。平成8年の梅雨前線豪雨267mmの1.2倍弱で特に過大ではない。
この雨に対して100年確率の洪水量(犀川大橋基準点)は、547m3/秒から1741m3/秒まで24個あり、カバーすべきは最大のものとしてそのうちの最大値1741m3/秒をまるめて1750m3/秒とした。100年におおむね1回発生する洪水が、それぞれ1/100である洪水量24個のうちから、24個の最大値になる確率は単純に思考すると1/2400になるはずで1/100ではない。決定する際に従うべき「建設省河川砂防技術基準」による統計的考えによれば、流量群の中位数の946m3/秒である。その差は約800m3/秒。ちなみに辰巳ダム3個分の違いがある。
実際の流量記録からの解析でも、1750m3/秒が100年確率流量ではない。27年間の河川流量実績から流量確率解析をすると、100年確率流量は963m3/秒である。1750m3/秒は6000年確率流量になる。「基準」では、計画降雨の確率と計画洪水量の確率に大きな相違が有る場合は、「関係を明確にし、他の方法によって計画規模を決める」ように規定しているがやっていない。
実際の過去の最大規模の出水はどれだけか?20世紀100年間の最大規模の洪水量は、平成10年台風7号豪雨842m3/秒、昭和36年第二室戸台風750m3/秒、昭和8年洪水930m3/秒。100年に1回の最大規模の洪水は930m3/秒である。
 どうして石川県の想定洪水量がこのように大きく設定されたのか。その理由を一言でいうと、前線豪雨に台風豪雨を合体させたモンスター豪雨を想定したからだ。前線性豪雨は停滞して、広い面積に弱い雨、台風性豪雨は移動して、小さい面積に強い雨という特徴がある。両方を合体すると、広い面積に強い雨になる。河川の洪水量は単純にいうと、面積に雨の強さを乗じたものに比例するので、前線洪水に台風洪水が合体したモンスター洪水となったのである。1750m3/秒の根拠である「平成7年8月30日型降雨」(「前線」を伴った低気圧)は、何でもない小さな雨を便宜的に2.0倍に拡大した結果、導かれたものであり、100年に1回発生する豪雨がこのような降り方をする科学的根拠はない。
 金沢における洪水は、前線性豪雨によるものか、台風性豪雨によるものか、どちらかである。平成8年梅雨前線豪雨では2日雨量で267mm降ったが、時間雨量にして10mmから20mm前後の弱い雨のため洪水量は346m3/秒にすぎなかった。平成10年台風7号豪雨では、犀川ダムで60mm近い雨を記録したがその時点では平野部の降雨は終息しており洪水量は842m3/秒である。昭和36年第二室戸台風においても山間部で時間70mmを記録した時点では平野部では雨があがっており、洪水量は750m3/秒である。
 これに対して、犀川の治水整備水準の現状はどの程度の治水安全度が確保されているのであろうか。犀川大橋基準点における流下能力は、昭和36年時点で615m3/秒であった。昭和40年に犀川ダムが完成し、想定洪水量930m3/秒となった。昭和49年に内川ダム、昭和54年に河床切り下げが完成し、想定洪水量1600m3/秒と拡大した。これは流量確率解析で3000年確率流量に相当する。犀川大橋地点は十分すぎるほど安全であり、1750m3/秒までわずか150m3/秒を緊急に引き上げる理由はない。
 逆説的にいうと、想定洪水量を大きくしないと、辰巳ダムの必要性を説明できない。想定洪水量1750m3/秒だから辰巳ダムが必要なのではなく、いまさら辰巳ダムが必要でないと言えないので、有史以来発生したことのないような洪水量1750m3/秒を想定せざるをえないのである。

                                               平成19年5月18日
                                                    中 登史紀
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