無駄な公共事業の一例!
犀鶴林道(さいかくりんどう)

-----目次-----
1.調査の理由
2.犀鶴林道の現状
3.犀鶴林道の概要
4.犀鶴林道の費用対効果分析
5.林道の維持管理費用
6.林道開設による崩壊土量
7.素朴な疑問
8.結論
-----資料-----
「林道事業の費用対効果分析」の抜粋(石川県農林水産部作成)
平成13年度民有林林道開設関係実態調書および犀鶴林道図

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1.調査の理由
 犀川の上流に治水目的で、石川県土木部が「辰巳ダム」を計画している。上流で開発が進み、出水量が増えたためと説明している。その一方で、石川県農林水産部は、林業振興のため、林道の開発を進めている。
 
 林業の経営がなりたたず、林道などの投資が割に合わないことは周知の事実である。森林開発公団は兆を超える負債を作って破綻した。いくつかの大規模林道などの事業が中止された。

 未だに林道を開発する理由があるのであろうか、常々、疑問に感じていた。どの程度、有効あるいは無駄なのか、どの程度、自然環境保全のプラスあるいは自然破壊などのマイナスの効果があるのか、犀鶴林道について若干の調査をして、公共事業である林道事業に関して問題提起しようと考えた。
 
2.犀鶴林道の現状
 1999年4月に犀鶴林道の現状をこの目で調べることにした。4月8日、ところどころに雪が残っていたが、アスファルト舗装の犀鶴林道にはほとんど雪はなかった。雪解けによる、山の斜面の崩壊がいたる所で発生していた。

その1 急な斜面の崩壊


その2 斜面の杉の植林地の崩壊


その3 ガードレールの損壊


その4 路肩に除けられた土砂


その5 犀鶴林道の枝線の林道(未舗装)での斜面崩壊の様子


3.犀鶴林道の概要
 犀鶴林道は、犀川の上流の金沢市駒帰付近から、石川郡鶴来町の県営鶴来浄水場付近に貫ける延長約31kmの林道である。受け持つ森林の面積は、3,230ha(針葉樹481ha、広葉樹2,749ha)である。

 石川県農林水産部中山間地域対策総室作成の「平成13年度 民有林林道開設関係実態調書」によれば、諸元は以下のとおりである。

 総事業費 55.4 億円
 延長 30.8 km
  (1kmあたり金額 1.80 億円/km)
  金沢市内の延長 24.6 km
  鶴来町の延長 6.6 km
 事業期間 29年間 (1975〜2003)
  (2001.6現在の進捗率は全体の3%程度を残すのみ)

 犀鶴林道は広域基幹林道(林道群の背骨にあたる林道で舗装する)で、すべて税金によって賄われる。負担割合は、国(50%)、県(35%)、市町(15%)である。山林の所有者の負担はない。これにつながる枝線の林道(舗装はしない)については、山林の所有者は受益者負担が必要である。

4.犀鶴林道の費用対効果分析
 石川県農林水産部は、犀鶴林道の有効性についてどのように判断しているのであろうか。今年から、『林野公共事業における事前評価マニュアル』に基づいて評価を始めた。

 マニュアルが昨年12月に作成されて、初めて作られたばかりであり、不十分な面が多々あるのは止むをえないことであると考えられるが、この分析結果を見れば、林道が如何に不効率で無駄な公共事業であるのか一目瞭然である。

 石川県農林水産部中山間地域対策総室が作成した「林道事業の費用対効果分析」の抜粋を文末に掲載する。
 主な区分別の効果額と全体に対する割合は以下のとおりである。
  林業生産効果1,867百万円(31%)
  造林等効果937百万円(16%)
  森林管理等経費縮減効果85百万円(1%)
  山村振興効果2,697百万円(45%)
  その他398百万円(7%)
 前3区分が林業の生産に直接かかわる効果をあらわし、全体の48%を占めている。山村振興などの間接的な効果が52%と半分を超えている。

 区分の中の細目である、事項別に効果額の大きいものを3項目あげると、その全体に対する比率はつぎのようになる。
  林業生産効果のうちの木材生産確保効果 1,731百万円(29%)
  造林等効果のうちの森林整備増進効果 936百万円(17%)
  山村振興効果のうちの保健休養効果 2,697百万円(45%)

 間接的な効果である、3番目の「山村振興効果のうちの保健休養効果」が45%と、約半分の効果を期待しているが、その中味を見てみよう。
 評価年数の間(54.5年)、乗用車50台/日、バス3台/日が走行するものとして、台数に原単位を乗じたものを積み上げた数値を割引率(3.87)で除している。これは、『マニュアル』によると、「森林浴などの保健休養効果と山菜等の副産物採取等のために林道を走行するコストを効果として評価」したものである。つまり、山菜取りが犀鶴林道事業効果の約半分を占めるのである。さらに、積雪や降雨による斜面崩壊の危険のために、年間の半分は通行できないことについての評価漏れがある。

 また、造林等効果のうちの「森林整備増進効果」については、計算では約4百万円(3.989百万円)となっているが、集計では936百万円を計上し、計算が全く間違っている。

 費用の中の維持管理費用がわずかに2百万円と著しく小さい。

 割引率の計算において、(事業期間29年+耐用年数40年)/2=34.5年としているが、事業期間29年/2+耐用年数40年=54.5年とするべきであろう。そうなると、割引率は8.48となる。そうなると、効果額は半分以下となる。

 最終的に、費用対効果は、1.08としている。「山菜取り」などの間接的な効果を除くと、費用対効果は、0.5程度である。維持管理費の計上も200万円と異常に少ない。百歩譲って、筆者の指摘以外の項目について県の評価が妥当なものとしても、林業にかかわる直接的な費用対効果はおおよそ0.5以下ということである。

5.林道の維持管理費用
 犀鶴林道の建設は石川県であるが、維持管理は金沢市と鶴来町が行っている。金沢市の分について、過去10年間(平成3年〜平成12年)の維持管理費用を毎年の委託事業実績報告書(報告書の種類:幹線林道整備事業犀鶴線工事委託、林道安全施設整備事業犀鶴線工事委託、路面補修委託、林道補修整備草刈り委託。)から調べた。維持管理費用の集計は、表1のとおりである。なお、維持管理区間は草刈りの延長を参考とし、平成3年で5.6km、平成12年で12kmである。

表1 犀鶴林道の毎年の維持管理費用(金沢市分)

 和暦 舗装補修/安全施設費など
千円
崩土除去など
千円
草刈り費
千円
合計
千円
平成3年 0 777 195 971
平成4年 4,468 661 206 5,335
平成5年 6,844 506 744 8,095
平成6年 4,738 866 842 6,446
平成7年 1,267 697 765 2,729
平成8年 499 1,008 809 2,316
平成9年 0 906 852 1,757
平成10年 0 1,014 1,137 2,150
平成11年 498 1,235 1,093 2,825
平成12年 500 1,417 956 2,873
合計 18,813 9,086 7,598 35,498
平均年間維持管理費用 1,881 909 760 3,550

  出典:金沢市の毎年の委託事業実績報告書


 年間平均の維持管理費用は3.55百万円である。これは市の一般財源により賄われており、市民一人一人が負担している。現在の維持管理延長12km分とすると、犀鶴林道(全延長31km)が完成した暁には、約9百万円(=3.55x(31/12))となる。事業費55億円の0.2%にしかならず、筆者が当初、想像したよりもかなり小さい。豪雨などにより、大きな崩壊が起これば別であるが?

6.林道開設による崩壊土量
 林道を開設することは、比較的、安定していた山林を切り開いて、弱い部分を造る結果ともなる。多雨、急斜面などの気象および地形条件のため、山林の斜面崩壊などの自然破壊が懸念される。金沢市の毎年の委託事業実績報告書から、崩壊土量を計算した。

 表2 犀鶴林道の毎年の崩土
 (崩土除去など)

和暦 犀鶴線の崩土
m3
平成3年 2,640
平成4年 2,440
平成5年 1,455
平成6年 2,982
平成7年 1,300
平成8年 1,650
平成9年 1,500
平成10年 1,500
平成11年 1,155
平成12年 1,200
合計 17,822
年平均 1,782

  出典:金沢市の毎年の委託事業実績報告書

 年間平均、1,800m3である。これを12km分と仮定すると、犀鶴林道全体で4,650m3(=1,800x(31/12))となる。荒廃地1haからの年間土砂流出量が200m3と想定すると、20ha強の荒廃地に相当する。(ちなみに1haあたりの年間土砂流出量は、森林2トン、耕地15トン、荒廃地307トン。) また、林道開設によって、切り開いた部分を幅15m、長さ12kmと仮定すると、面積は18haとなる。1haあたりの崩壊土量は、100m3となる。
 また、常時の降雨による土砂の河川への流出も問題である。当然、洪水時の出水量も大きくなる。事業費55億円を山を崩しているという側面も否定できない。このことのマイナス効果をどのように評価するか問題である。

7.素朴な疑問
 木材価格は、3.5万円/m3であるが、伐採・搬出・輸送経費が2万円/m3かかるので、収益は1.5万円/m3となる。主伐材積460m3/haである。市による造林面積約100ha(平成13年6月現在の金沢市農林整備課調べ)とすれば、収益はつぎのとおりである。
1.5万円x460m3/hax100ha=7億円

 計画通りに481haの造林がなされた場合の収益はつぎのとおりである。
1.5万円x460m3/hax481ha=33億円

 単純に経済的に考えて、7億円あるいは好意的に判断して33億円のものに、55億円の費用をかけていいのだろうか?

 さらに、大きな問題がある。事業費55億円は、一般の税金によっている。33億円の収益は、山林の持ち主に帰属する。国民の税金を山林の所有者に33億円の財産移転をしたようなものではないか?

8.結論
 筆者の調査による「犀鶴林道」に関する評価は以下のようなものである。
 @ 本四連絡橋や東京アクアラインの結果を見るまでも無く、公共事業者の予測のほとんどは大甘であるが、その事業者自身が費用対効果を0.5以下と判断しているほど非効率な事業である。
 A 国、県、市、山林所有者など関係者の誰もが利益を受ける事業ではない。ただ唯一利益を受けるのは、建設あるいは管理の段階で工事にかかわる土建業者だけである。
 B 7億円あるいは33億円の収益のために55億円を投資する事業である。しかも、この55億円は国民の税金である。一方、収益を得るのは、山林の所有者である。国民の税金を一部のものに財産移転する事と同じことである。
 C 斜面崩壊や雨水による土砂流出などによる自然破壊のマイナス面について全く評価が欠落している。


資料
その1:犀鶴林道の過去10年間(平成3年〜平成12年)の維持管理費用
毎年の委託事業実績報告書(報告書の種類:幹線林道整備事業犀鶴線工事委託、林道安全施設整備事業犀鶴線工事委託、路面補修委託、林道補修整備草刈り委託。)
担当部局は、金沢市農林基盤整備課
その2:平成13年度民有林林道開設関係実態調書
その3:『林野公共事業における事前評価マニュアル』平成12年12月、社団法人日本林業協会
その4:『林道事業の費用対効果分析』石川県農林水産部中山間地域対策総室作成

「林道事業の費用対効果分析」の抜粋(石川県農林水産部作成)(PDF)

平成13年度民有林林道開設関係実態調書および犀鶴林道図

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