浅野川洪水災害関連砂防工事で談合は?

 
 奥能登談合事件は、平成19年3月の能登半島地震の災害復旧工事が端緒となったようであるが、類似の浅野川洪水の災害復旧工事では談合がなかったか疑念がわいたので奥能登談合の分析と同じように、入札結果を少し調べてみた。
 入札結果資料は、石川県土木部監理課のホームページから、浅野川洪水災害関連砂防工事11件(下図、別表)を抜き出した。いずれも石川県発注の総合評価方式に係る入札結果である。下の表T-1に掲載する。

表T-1(簡易版)→(未省略版T-1はここをクリック) 

 工事名

落札者

落札金額

落札率

 

 

(千円)

(%)

横谷川2号谷 災害関連

丸石建設(株)

187,000

88.5

石黒川 災害関連

日本海建設(株)

94,340

82.3

東町川 災害関連

北川建設(株)

198,000

96.8

北袋川2号谷 災害関連

(株)日豊技研

142,750

82.8

北袋川2号谷 災害関連(林道)

真柄建設(株)

111,600

84.1

板ヶ谷川1号谷 災害関連

(株)北野組

263,500

95.6

板ヶ谷川3号谷 災害関連

(株)明翫組

84,500

93.7

横谷川2号谷 災害関連

(株)北都組

193,000

94.9

20災150号 板ヶ谷川砂防災害復旧

(株)治山社

174,000

95.8

北袋川 通常砂防工事(えん堤工)

(株)日豊技研

87,150

84.0

20災150号 板ヶ谷川砂防災害復旧

(株)北野組

104,000

93.1

注:太線の上の工事は平成21年1月から3月に発注、太線の下の工事は平成21年9月から12月に発注された。


 奥能登談合では、業者間で落札率を石川県発注は95%以下、輪島市発注は97%以下という暗黙の了解があったらしく、高値安定で落札されていた。
 一方、浅野川洪水災害関連砂防工事では、落札率が95%以上で3件、90から95%で3件、90%弱が1件、82から84%付近で4件、合計11件となっており、落札率がばらついている。ちなみに、82から84%は最低制限付近で落札されたものである。
 落札率について、95%以上は「談合の強い疑いがある」、90から95%は「談合の可能性がある」といわれているので、この判断の目安からすると6件あるいは7件については談合の疑いがあるが、全体として落札率にバラツキがあり、正常な競争が行われたように見える。
落札者については、平成21年1月から3月発注の工事9件で同一業者の落札はなかったが、同じ年の9月から12月に実施された2件の工事ではいずれも既に落札していた同一業者が落札している。北袋川の件では、(株)日豊技研であり、板ヶ谷川の件では、(株)北野組である。しかも、前者の落札率は、82.8%、84.0%であり、後者は95.6%、93.1%となっており、近似している。平成21年1月から3月発注工事9件と9月から12月発注工事2件を単独でみればバラツキがあるが、比べて見ると強い関連がありそうである。

 以下に入札結果毎に簡単な分析を加えて談合の有無を調べてみた。ただし、この分析は、結果の数値から見て談合の疑いが認められるという独断と偏見の筆者の想像である。入札結果の各社技術評価点は、事前に公表されているわけではないので、各入札参加者はわからないことになっている。したがって、談合しても落札者を決めることはできない、談合できないしくみになっているからである。

 全11件を個別に分析したものが表T-2である(別紙)。分析といっても、入札価格の割合と「最低制限価格の評価値」を計算しただけである。
総合評価方式では、落札するために「入札価格」だけで決まらず、入札者の技術が「技術評価点」として評価される。「技術評価点」を「入札価格」で割算して求められた数値が「評価値」であり、この評価値の最高点をつけたものが落札者となる。

奥能登談合では、95%という談合の目安となる落札率があったのでわかりやすいが、浅野川洪水災害関連砂防工事では、落札率がばらついており、わかりにくい。落札率をグループ分けして検討した。

@90%以上のグループ
 90%以上は6件ある。うち2件(3と9)は、応札が1社だけであり、落札率が96.8%、95.8%である。「無競争型」である。もし1社だけに特定しなければならない理由があれば、随意契約でもいいわけで、それをしないで発注者が一般競争入札としたのは、競争入札すべき環境にあったと判断したわけで、これが競争入札にならないのは、業者間の村の掟にしたがって談合が行われたと考えられるケースである。
 残りの4件(6,7,8,11)は、応札が2社から7社と一応は競争の形が整っているケースである。しかし、入札資格のある参加者は少なくとも22社あり(11件に参加した業者数)、資格があれば自由に参加できるにしては入札参加者の数が少ない。ここでは、最低制限価格の評価点(d)の数値に着目した。各社が最低制限価格を入れた場合に、計算される評価値であり、つまり、各社が取りうる最高の評価値である。最低制限価格を下回れば失格となるのでこれ以上の評価値はとれない。この点数と落札者の評価値と比較すると、落札者の評価値よりも大きければ、落札のチャンスはあったということになる。この4件のケースでは、落札者の評価値よりも他の参加者の最高の評価値(最低制限価格の評価点d)の方がすべて上回っている。つまり、参加者すべてについて落札のチャンスがありながら、そのチャンスをミスミス放棄しており、「競争放棄型」である。

A90%をわずかに下回ったグループ
 落札率88%が1件ある。このケースでは、@の「競争放棄型」と同様にほとんどの業者に勝つチャンスがありながら、放棄している。ただ、1社の(株)明翫組は勝チャンスがなかった。逆にいうと、(株)明翫組の最高点を上回る評価値をいれることによってこれを排除することができることになる。(株)明翫組の最高点は628点であり、これを上回る637点とすることで逆に落札価格を決め、これから落札率88%が決まったということだろう。「準競争放棄型」である。日本海建設(株)は、勝チャンスがあったが、最低制限価格以下で失格になっている。落札する意欲はあったようであるが、同じ日の別件を落札しているのでこの件は故意に失格した疑いもないことはない。結局、(株)明翫組だけが村の掟に抵抗したかもしれない。

B82〜84%グループ
 ほぼ最低制限価格で落札しているもので4件(2,4,5,10)ある。もし、談合があるとすれば、なるべく高い価格で落札したいだろうが、なぜ最低制限価格ギリギリで落札するのだろうか。落札者のメリットはなんだろうか。考えられることは、最低制限価格にギリギリでいれることで評価値は取りうる最高点となる。この評価値を上回ることができない入札参加者に対しては何の借りもできないことになる。5のケースは、最もわかりやすい。落札した真柄建設(株)は、他の参加者と比べて格上であり、技術評価点も飛び抜けて高い。最低制限価格で落札すれば、誰もかなわない。談合する必要はなく、最低制限価格で応札すれば誰にも借りを作らずに落札できることになる。談合はないが、業者間で受注調整はしている。なぜなら、真柄が参加すればほとんどの件で落札することができるにもかかわらず、全11件でこの1件にしか応札していないからである。事前に間接的に談合している「受注調整型」である。
その他の3件(2,4,10)は、落札者に対して勝チャンスがあったのは、1社あるいは2社である。落札者は最低制限価格を入れることで自分の評価値を最大にして、これよりも上回る1あるいは2の参加者に対してのみ借りを作り、落札したのだろうと推察される。「一部競争放棄型」である。借りはなるべく作りたくない、後から返さなければならないから。

 落札価格がばらついていてもそれぞれの理由が推測され、談合の疑いがあることがわかる。
 また、全般的に見て、最低制限価格以下で失格するケースが少ないことが目立つ。
 11件のうち、最低制限価格を下回って応札されたのは4件である。入札価格/最低制限価格(b/B)の欄が100%以下の場合、入札価格が最低制限価格を下回り失格となっている。入札価格/最低制限価格(b/B)が100%以下でもそのほとんどが99%以上、つまり最低制限価格をわずか1%未満下回っているにすぎない。子供が徒競走で手をつないでゴールしているようである。

【別表】浅野川洪水災害関連砂防工事入札結果(総合評価方式11件)
1.横谷川2号谷 災害関連緊急砂防工事(えん堤工)
2.石黒川 災害関連緊急砂防工事
3.東町川 災害関連緊急砂防工事
4.北袋川2号谷 災害関連緊急砂防工事(えん堤工)
5.北袋川2号谷 災害関連緊急砂防工事(付替林道工)
6.板ヶ谷川1号谷 災害関連緊急砂防工事
7.板ヶ谷川3号谷 災害関連緊急砂防工事
8.横谷川2号谷 災害関連緊急砂防工事(えん堤工)
9.20災150号 板ヶ谷川砂防災害復旧工事・板ヶ谷川 通常砂防工事・横谷川2号谷 災害関連緊急砂防工事(板ヶ谷川本川下流えん堤工) 合併工事
10.北袋川 通常砂防工事(えん堤工)
11.20災150号 板ヶ谷川砂防災害復旧工事 板ヶ谷川 通常砂防工事 横谷川2号谷 災害関連緊急砂防工事(板ヶ谷川本川下流えん堤工)合併工事(その2)

2011.11.13 中 登史紀

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