NHK教育テレビ放映
金曜フォーラム「温暖化防止へアジアの役割」
近藤次郎、森島昭夫、クラウス・テプファー、T・R・バール
2001年11月23日23:00-0:10

要約:
以下の3つのテーマにわけて、用意された映像を見た後、議論が進められた。
@アジアの環境保全対策
A人口の都市への集中、環境にどう影響を及ぼしているのか
BNGOはアジアの環境保全のために何をどうするべきか

アジアの環境問題の特徴は、人口増が急速であること、経済発展に伴い、都市への人口集中が起きていることである。世界人口60億の6割の36億人が住み、2025年には47億人に増加すると予測されている。1日1ドル以下の貧困層は、9億人で世界の貧困層の75%が集中している。貧困層が都市に流入している。2030年には都市人口が50%を超える。このスピードに都市インフラが整わないので、交通、ゴミ、水の汚染、上下水の問題が発生している。工業化に伴い、エネルギー消費も急拡大している。環境問題のデパートの様相を呈している。アジアの人々はどうすべきなのか。

@アジアの環境保全対策として、「タイのバンコクの交通事例」が紹介された。バンコクは560万人で定常的に交通渋滞が激しいところとして知られている。車450万台のうち、バスやトラックが70%を占める。4年前から、CO削減のため、バスの車検が実施されるようになった。違反車は罰金が課せられるので、バス会社での車検に費用を掛ける方が経済的になった。また、ツウストロークのオートバイは浮遊粒子状物質などの有害物質を排出するので、無料で改良することにした。車検は7年であるが、短縮する予定である。植林活動、車中心の政策をやめることなどを実施している。

この映像に対するパネリストの意見はつぎのとおりである。
・デイリーでは、CNGで走るクリーンなバスの導入を進めている。
・ジャカルタでは、無鉛ガソリンを使用する政策を実施し、成果があった。
・都市化が進行し、世界人口の50%が都市に集中している。都市交通による大気汚染が深刻化し、5000〜7000万人が呼吸器系の疾患にかかり、毎年13万人が死亡している。都市で減らすには2倍のコストがかかる。持続的な発展が可能な都市化のプロセスが必要である。
・問題解決のための50%は、技術により、残りの50%は行政による環境政策である。環境に負担の少ない交通手段が必要である。
・公害を管理することによって医療費を削減できる。9〜13%は環境問題に関係している。広い視野が必要である。
・大気汚染は水汚染と違い、きれいな空気を買ってきて使うことはできない。
・日本では、1970年代、SOXやNOXの削減に力を注ぎ、四日市や川崎の大気汚染を激減させた。日本の企業や車のメーカ−の努力に負うところが大きいが、OECDで高く評価されている。

A人口の都市への集中で、環境にどう影響を及ぼしているのかについて「ジャカルタの廃棄物の問題事例」が紹介された。ジャカルタは937万人の大都市である。大量消費社会を迎えており、ゴミが増加し、プラスチックゴミが全体の11%を占めるようになった。(全体のゴミのうち有機ゴミ65%、無機ゴミ35%である。)日本の援助で108haのゴミ処分場が造られ、1日あたり8,500トンのゴミを埋め立てている。排水処理施設も完備している。ゴミ処分場の周辺に、ウェイストピッカーと呼ばれる人たちが約4500人住み着いている。地方から都市に流入した貧困層の一部で、プラスチックゴミなどを分別して売っている。その周りには回収業者が軒を連ねている。ゴミのリサイクルシステムを形成している。現在のように不景気になると盛んになる。また、日本の支援で「環境管理センター」がつくられ、人材育成を行っている。

この映像に対するパネリストの意見はつぎのとおりである。
・インドでは80%が農民である。都市へ流入し、スラム化し、貧困問題が起きている。
・アジアでの家庭ゴミは、ほっておけば増える。全部集めきれないので、道や川へ投棄され、汚染する。
・日本では、まず減らそうと言うことでリサイクルが行われている。(筆者注:リーユースの方が省エネルギーで合理的ではあるが。)
・リサイクルを市場化し、リサイクルに携わっている人の収入を増やせないか。
・国際協力によってゴミのリサイクルができないだろうか。ゴミの半分を占める生ゴミ、有機ゴミをリサイクルしたい。コンポストの技術が欲しい。コンポスト市場を開拓したい。
・89年から日本のODAは環境に力を入れる方向でやっているが、コンポストの援助はあまりやっていない。
(筆者注:途上国のコンポスト施設は大半がうまくいっていない。コンポスト施設は広い面積が必要で、悪臭も発生する。ゴミは毎日でるが、コンポストの需要は年間の一時期に限られているので、大きなストックヤードが必要となる。嵩や重さあたりの単価が安いので輸送には限界があり、遠くへ運べない。コンパクトで機能的な方法もあるが、維持管理費が高く、コンポストの単価が高くなり、売れない。また、コンポスト施設は先進国の援助で造られても、有機ゴミの収集システムが有効に機能していないことが多い。分別が不十分で出来上がったコンポストの品質が悪いことが原因で需要がないことも多い。金属などの不純物を含んでいたりする。有効な分別収集システムは、現在の日本のように、ゴミを出す住民がすべて分別に協力できるような社会が前提条件である。)

BNGOはアジアの環境保全のために何をどうするべきか について「ジョクジャカルタでのNGOによる小型排水プラント事例」が紹介された。ジャワ島中部のジョクジャカルタは革製品を作る中小企業が多い。皮のなめし作業で大量の汚水が周辺の排水路に流れ込む。NGOである「村の灯(ともしび)財団」は、中小企業に合った廃水処理技術の開発に援助をしている。「地球環境基金」で円盤に地元で調達できるヤシの繊維を使った安価な「回転円盤法」による排水処理施設をつくった。
また、「タイのある村のマングローブ植林事例」が紹介された。マングローブは成長が早く、CO2を大量に吸収してくれる植物である。エビの養殖ブームで、海岸のマングローブ林がエビの養殖池に変わった。海岸の浸食がおこり、毎年、1mも削られると言う。4000haがエビ養殖池になった。タイと日本のNGOの協力で420haのマングローブ林を復活させた。1000haまで拡大したい。「グリーンカーペットプロジェクト」と呼んでいる。

この映像に対するパネリストの意見はつぎのとおりである。
・市民社会の力がある。知識と志を持った人が多いので、取り込んでいく必要がある。
・行政とNGOは地球全体の利益につながる。
・NGOは、国の制約をはなれて活動するために、独立して採算がとれることが必要である。
・情報通信、IT技術により、情報を共有し、意志の疎通をはかることができる。
・ヨーロッパでは、市民が情報を知り、意志決定に参加している。
・市民が参画し、国と国、地方と地方、人と人がパートナーシップを組み、問題発見、解決をすることが大切ではないか。
・すべての人が幸せに、豊かになる権利がある。一国繁栄主義は過去のものであり、これからはすべての人が手を取り合って、交流が国を越えて、ますます活発になっていくだろう。地道な努力が必要であり、なかなか成果はでないだろうが。

感想:
アジアでの工業先進国としての日本での公害体験は発展途上のアジア諸国の公害問題の解決のために貢献していることはまぎれもない事実であるが、まだまだ不足していると感ずる。各人の専門を生かして専門家職業人として参画する、あるいは組織の制約を障害となる場合はボランティアとして参画する方法もある。地域的に限定される公害問題ならば発生後でも改善する方途はあるが、地球環境問題は大きな被害が発生した後改善に取り組むのでは遅すぎる。変化の兆候がでてきた時点で変革のための地道な取り組みが必要となるだろう。

平成13年11月23日
中 登史紀

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