「読書」:要点と感想
『地球環境と資源問題』
森俊介著、四六版230頁
シリーズ現代の経済、岩波書店、定価:1,940円
内容:持続的な成長のための地球環境問題の分析
要約 :
環境問題では個人の価値観が重要なことは言うまでもないが、この変革から議論を始めることには筆者は賛成しかねる。
資源と地球環境の問題は専門家だけの問題ではない。全人類的な問題でもある。環境問題は、その責任の明確さ、範囲、規模により(1)公害問題(2)環境汚染問題(3)地球環境問題に分けることができる。
・公害問題では、汚染源は特定され、汚染範囲は局地的であることが多い。
・環境汚染問題では、汚染が不特定多数に広がり、範囲も規模も大きい。
・地球環境問題では、汚染源の特定が難しく、地球規模の影響があり、被害者の範囲が広範囲ではっきりしない。時間的範囲が100年単位となるので「責任」と「負担」の問題はいっそう複雑になる。法律で規制もできない。市場メカニズムに任せて解決できない。一つだけ明らかなことは対策を講じるのが早ければ早いほど、被害も必要な費用も小さくて済む。
・地球環境問題の対策には、ほぼ三種類ある。
第一は、技術的対抗策である。日本では、石炭火力発電設備への脱硫装置の投資と技術改良の結果、酸性雨対策と硫黄資源の回収の双方をなしえた。
第二は、適応策で、現在の資源を使って将来の富を最大限に増加させようとするものである。経済学者からのアプローチが多い。「環境と経済成長」を両立させるキーワードとなっている「持続可能な成長」では、自然科学と社会科学の知識を総動員することが必要となる。
第三は、防止策で、法律的な規制を用いる対策である。
・資源が枯渇し、成長に限界があるのではないかとの指摘がなされた。1972年にローマクラブより発表された「成長の限界」モデルは、地球の資源と環境の有限性を強く警告し、世界の関心を集めた。それまでの経済学が前提としていた「無限の発展可能性」に対し、「資源」が有限であること、またこれを廃棄する場としての「環境」の制約が、いかに技術発展の可能性に期待したところで、結局は成長に限界をもたらすものであることが強調された。結論は、「基本的には人口の増加、資源の枯渇、汚染の増大により一人あたり食糧、一人あたり生産額には限界がある。この結果、成長は破綻し、人口はある時点以後減少に向かう。」モデルを提唱したメドウズらはさらに、技術の可能性、資源の発見、食糧の生産性向上等にパラメータを変化させ、これらがいずれも破局を遅らせるだけで、何らの問題の本質的解決をもたらさないことを示した。
・森林による二酸化炭素の吸収量は、気候、森林の種類や植生によりかなりの開きがあるが、一ヘクタール当たり6−9トンであると言われている。
・バイオマスとして毎年太陽エネルギーの0.1%(世界のエネルギー需要の10倍)が地球上で生物として再生産されている。
・酸性雨問題、オゾン層破壊問題、地球温暖化問題に対して、原子力エネルギーは正常に働く限りこれらの問題を解決できる技術であるが、一方で事故による放射能汚染問題が発生したとすれば、これ以上に深刻な地球環境問題となる危険がある。
感想:
科学技術が進歩するに従い、専門分化が著しく、技術者は狭い領域に入り込まざるを得ず、視野が極端に狭くなる。ところが、資源と地球環境に焦点をあてると、時間軸、空間軸、様々な分野の軸がとてつもなく広がり、雲をつかむような不安に陥る。有限の自然の恵み、循環型基調で思考、資源・エネルギーの高効率利用、リサイクル技術、そのための社会システムの確立した「持続可能な成長」が将来の「地球環境と資源問題」が解決に向かう姿だろうということが、おぼろげながら見えてきた。
氏名 中 登史紀
2001年8月15日
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