辰巳ダム日誌(2003年2月)

【「河川計画専門部会」第1回委員会(公開)開催:1月25日(土)午後1時半より、地場産業振興センターで】

 県から治水に関して全般の説明あり.細部にわたり、一通りの議論あり. 問題点が出尽くしたというところ. 本格的な議論はこれからか.
 当方が指摘した点については、いくつかの資料提示や補足説明の中で反映されているようであった。純粋に土木技術的な指摘であるので、答えて当然のことではあるが。

【「犀川の治水計画に関する意見書」を犀川水系河川整備検討委員会河川計画専門部会事務局へ提出:2月26日】

 1月25日に開催された「河川計画専門部会」での県の説明および議論についての意見書の要約を建設室長と計画課主幹に説明し、提出した。
 要点は4項目からなり、前回の部会でほとんど議論されなかった問題点である。
 「計画降雨の継続時間について」、「計画降雨群の選択の問題点」、「基本高水と実際の洪水量との違い」、「基本高水の決め方に論理的誤謬」の4点である。各点について一言で要約すると以下のとおりである。
 
計画降雨の継続時間について
 ●2日雨量では前線性降雨は捉えることができても懸案の台風性豪雨を捉えることができない。
 
計画降雨群の選択の問題点
 ●全く、性質の異なるものを一つの母集団として取り扱うのは問題である。台風型と前線型に分けて検討する必要があるのではないか。
 
基本高水と実際の洪水量との違い
 ●1/100の「基本高水」と20世紀の100年間に発生した実際の洪水量は近似しているはずである。
 
基本高水の決め方に論理的誤謬
 ●県の基本高水の決め方は論理的な誤謬があり、その結果、1/100の降雨による出水量ではなく、著しく低い確率の降雨(有史以来発生したことの無い!)による、異常に大きな出水量となっている。

 最も大きな問題である、「基本高水の決め方」に関する筆者の「意見」をまとめたのでここに紹介する。

【「犀川の基本高水の決め方」に関する筆者の意見:石川県の基本高水の決め方に論理的誤謬あり!

  以下にその論理的な誤りを指摘する。
 県は表「計画降雨波形群の分類・基本高水ピーク流量」を作成した。生起年月日の順に33降雨波形を一覧にしたものである。各生起年月日の降雨を1/100の確率に引き伸ばした降雨とその場合の基準点における出水量を示してある。この表の基準点(犀川大橋地点)の3時間雨量に着目して、その大きさの順に並べ替えた。これが、表1「計画降雨波形群の分類・基本高水ピーク流量」である。
 降雨が流域の最遠点から犀川大橋の基準点に到達する時間がおおむね3時間前後であるので、3時間雨量が犀川大橋地点のピーク量を支配することが予測できる。各降雨波形を3時間雨量の大きい数値順に並べ替えると、基準点の出水量も大きい数値順に並ぶことが推測される。表1によれば、若干の凹凸はあるものの、基準点の出水量も大きな数値の順に並んでいる。
 色塗りの欄は県が棄却の基準を超えたとして棄却した降雨波形である。県は、棄却されないで残った降雨波形の中で基準点の出水量が最も大きくなるH.7.8.30降雨波形を選択し、基本高水を1,741m3/sとした。
 この降雨波形は表1を見てわかるように、5個の棄却基準を超えない降雨波形の最も大きいものである。これが意味するものは、5個の棄却基準にもっとも近く、5個の棄却基準すべてをギリギリにクリアーする降雨波形である。
 5個の棄却基準はそれぞれ1/100の確率である。それぞれが独立の事象であれば、すべてを満たす確率は乗法の原則に従い、100億分の1の確率となる。狭い地域の関連した自然現象であるので独立の事象であるわけがないのでこんな確率にはならない。しかし、当然、同一の事象ではない。同一の事象ではない現象が同時に起こる確率は1/100より小さくなる。つまり、県が求めようとしている降雨波形は、5個の事象(それぞれ1/100)が同時に起こるような場合を求めているものであり、1/100の確率よりもかなり低いと推測できる。
 したがって、筆者は有史以来発生したことの無い(1/1000、1/2000?)ようなケースを求めているのではないかと指摘しているのである。

 もし仮にこのような解析手法を用いるのであれば、過去数十年間の大量の実際のデータによる面倒な解析は不要である。5つの棄却基準の降雨パターンを想定して1回の計算ですむ。

 この解析手法がおかしいということはつぎのことからも言える。
 もし、仮にH.7.8.30降雨波形が5つの棄却基準の一つを満たさなかったと仮定してみよう。例えば、基準点3時間雨量が138.6mmであるが、これが4mm多い142.6mmだったとしよう。そうなると、棄却基準142mmを超えるので棄却される。残りの降雨波形で基準点水量が最も大きいものがS.36.7.10降雨波形で基本高水は1,312m3/sとなる。 H.7.8.30降雨波形がわずかに違っていたとしたら、基本高水が432m3/s小さくなる。個別の雨のわずかな違いで基本高水が違ってしまうという馬鹿馬鹿しいことがおきる。

 さらに、いくらでもおかしいという論証は出来る。
 棄却基準降雨波形(5個の棄却基準値に等しい降雨)とH.7.8.30型降雨との中間の雨、つまり、H.7.8.30降雨波形の雨よりも大きく、棄却基準降雨波形以内の雨が明日にでも降ったら、また基本高水を変えなければならないのか?

 個別の事象群である、33あるいは24の降雨波形群を一つの母集団と考えて、統計処理をすることによって1/100の降雨波形を探そうとしているのではないのか。

 河川計画が拠るべき「技術基準」によれば、選択した降雨波形による出水(ハイドログラフ群)から、中位数を取り、基本高水(計画ハイドログラフ)を求めることになっている。 一番大きな数値を取るなどとは記述されていない。
 『改訂建設省河川砂防技術基準(案)計画編』p.16(平成8年発行)の「基本高水の決定」の項で、いわく、

1. ハイドログラフをピーク流量の大きさの順に並べる。
2. このハイドログラフ群の中から既往の主要洪水を中心に降雨の地域分布を考慮して1個または数個のハイドログラフを計画として採用する。 ・・・・・・
また、計画に採用するハイドログラフは、既往最大洪水が生起したものを含み、かつ、少なくとも1.によって並べた順の中位数以上のものとする。
3. これらの諸検討の結果を総合的に考慮して基本高水を決定する。この場合ピーク流量が1.のハイドログラフ群のそれをどの程度充足するかを検討する必要がある。
この充足度を一般にカバー率という。・・・・
上述の方法によれば、このカバー率は50%以上になるが、1級水系の主要区間を対象とする計画においては、この値が60〜80%程度となった例が多い。

 

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