平成15年5月26日
犀川水系河川整備検討委員会 玉井委員長 殿
石川県河川課長 殿
犀川の「利水計画」に関する公開質問状
金沢市小立野3-12-28
中 登史紀(技術士)
犀川の「利水計画」に関する第4回犀川水系河川整備検討委員会(平成15年4月25日)の議論を拝聴いたしました。検討条件や検討方法、検討結果についての説明はありましたが、検討内容の多くは省略されました。そのため、検討内容の意見ではなく、示された結果について箇条書きの質問形式で疑問を提示いたします。
●質問1 かんがい用水だけを見直した理由は?
河川法に基づいた、河川の水管理は、水の利用実態を把握し、水の合理的な使用を図るためのものと考えられます。今回、かんがい面積の激減による実態に応じてかんがい水量の見直しをされたことは画期的なことであると思います。ところで、犀川水系では、かんがい用水のほかに、工業用水、上水も著しい水余りの実態があります。かんがい用水と同時に、工業用水、上水も使用実態にあわせた見直しが必要と考えますが、かんがい用水だけを見直した理由は何でしょうか?
かんがい用水だけを見直したことについて農林サイドの反発が予想されますが、農林サイドについてどのように説得されるのでしょうか?
工業用水、上水は、金沢市の持つ水利権なので県が口出しできないとでも考えておられるのでしょうか。住民から見ればどこが権利を持っていようと、同じ水であり、合理的な水利用をするべきと考えます。
●質問2 かんがい水量を直近の平成13年のかんがい面積を参考にして見直すことは理解できますが、平成13年値を基準に見直す理由は?
平成13年値に意味があるのでしょうか? かんがい面積の減少傾向がなく、この数値が当面、変動しないということなのでしょうか? あるいは、平成13年はかんがい用水水利権の許可を判断する特別な年でもあるのでしょうか? あるいは、ほかの理由があるのでしょうか?
平成13年が単なる通過点であれば問題です。つぎの年にかんがい面積が減少すれば、また見直さざるを得なくなります。農林サイドと協議する必要有りとの説明がありましたが、明確な根拠がなければ議論のテーブルにもついてもらえないのではないでしょうか?
●質問3 かんがい面積は約1/3になりましたが、見直したかんがい用水量は約2/3にしか減少していません。見直したかんがい用水量の算定根拠を示してください。かんがい用水量を算定する際に、用水損失率を用いますが、毎年、多額の費用を投じて行われてきた農業用水路改修による効果を用水損失率にどのように反映しているのですか?
「犀川ダム計画書」によると、かんがい用水量はつぎのように計算されています。
かんがい用水量(Q)=かんがい面積(A)×単位用水量(m)×損失率(loss:15−30%)
仮に、かんがい面積が1/3になり、損失率が2倍になると、かんがい用水量は、
(1/3)×Q×m×loss×(2)=(2/3)×Q
となります。つまり、かんがい面積は1/3になりますが、かんがい用水量は2/3にしか減少しません。
県は、「かんがい面積が約1/3になったが、モザイク状に残った田へ用水を行きわたらせるために水量ロスが増えるので用水は約2/3になる」と説明しました。県の説明と筆者の試算は符合します。昭和36年当時に比較して、現在(平成13年)は用水損失率が2倍になったと考えて良いのでしょうか?
とすれば、毎年、多額のお金を投じて行われている農業施設改良事業による、用水路の改修の効果は用水損失率にどのように反映されているのでしょうか?
注:「犀川ダム計画書」によると、各用水の損失率は、中村高畠15%、大野庄15%、泉20%、鞍月15,25%、大桑20%、長坂30%,辰巳25%、寺津20%である。
●質問4 辰巳用水のかんがい面積は約1/3に減少しています。見直したかんがい水量は当初の97%とほとんど減っていませんがその理由は?
小規模でかんがい面積がほとんど変わっていない用水(寺津町生産組合、下鴛原生産組合、辰巳町農業生産組合)を除いて、かんがい面積は当初に比べて21〜43%に減少し、それに応じてかんがい水量も40〜73%に減少すると県は見積もっています。辰巳用水だけが、かんがい面積が31%と減少しているにもかかわらず、かんがい水量を97%とほとんど同じと見積もっている理由は何でしょうか?
(表1 各用水のかんがい面積(現況/当初)と水量比(見直/計画)、図1 各用水のかんがい面積比(現況/当初)と水量比(見直/計画) を参照のこと。)
●質問5 魚類の生息環境を考えて河川維持流量を1.19m3/秒としたとの説明ですが、大きな川に辰巳用水量の2倍程度の水を流すことで魚類が生息できるのでしょうか、検討内容を示してください。
県は、中流部(大桑橋〜伏見川合流点)における必要流量である河川維持流量を1.19m3/秒としています。その根拠は、魚類の生息・生育条件を検討して決めたとの説明がありましたが、川幅40m〜60m前後の空間に辰巳用水量の2倍程度の水を流して、魚類の生息条件を満たすことは困難ではないかと考えます。その検討内容はどのようなものでしょうか?
また、小数点2位までの数値が示されていますが、それほどの厳密な検討をしたのでしょうか?
●質問6 「犀川水系における利水の課題」として、上水、工業用水の使用の減少あるいはゼロ需要をふまえ、上水、工業用水の水利権を適正な規模に見直す必要はないのでしょうか? かんがい用水を見直して、上水、工業用水を見直さない理由は?
県の説明では、犀川で開発された上水量(犀川ダム、内川ダム)、2.52m3/秒、工業用水量、0.46m3/秒 とあります。
ところで、金沢市の上水道を概観するとつぎのとおりです。
日平均量(年間の使用量を365日で割った水量)は、1970年代は毎年の伸びがあり、1980年に171千m3/日と17万m3/日台に乗り、その後は現在まで、16万〜17万m3/日台(約2.0m3/秒)で横ばいに推移しています。
日最大量(年間で最も使用量の大きい日の水量、夏季の場合を対象)は、1985年8月2日に227,270m3/日(約2.6m3/秒)と最大を記録、その後は21〜22万m3/日、最近の数年は20〜21万m3/日台にとどまっています。
毎年、給水人口はわずかながら伸びているにもかかわらず、上水道給水量は横這いか、減少気味です。主たる原因は、市民による節水によるものと考えられます。金沢市の水道使用量の約7割は家庭であり、市民の水利用動向が市全体の水使用量に大きく影響します。下水道の普及による下水道料金の負担、上下水道料金の上昇により節水意識がはたらいたと考えられます。
金沢市の水道供給能力と実際の使用水量について、昭和50年(1975年)からの推移を図に示します。水の使用実態が横這いであることがわかります。
(図2 金沢市の上水道供給能力と使用水量 を参照のこと。)
金沢市は昭和55年(1980年)に手取川を水源とする県水の受水を開始しました。現在、約1.0m3/秒(直近10年間の平均値0.93m3/秒)を受水しています。市全体の取水量は、日平均で約2.1m3/秒(直近10年間の平均値2.09 m3/秒)、7月平均で約2.3m3/秒(直近10年間の平均値2.28 m3/秒)、8月平均で約2.3m3/秒(直近10年間の平均値2.29 m3/秒)、日最大で約2.6m3/秒です。
金沢市上水道の直近10年間の平均取水量、犀川の水利権水量、犀川の未取水量を以下に示します。
金沢市上水道の直近10年間の平均取水量と未取水量 (単位:m3/秒)
項目
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7月
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8月
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年平均
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総取水量
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2.28
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2.29
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2.09
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県水
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1.09
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1.16
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0.93
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犀川ダム
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0.63
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0.60
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0.67
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犀川水系
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内川ダム
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0.56
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0.54
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0.49
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計 (A)
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1.19
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1.14
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1.16
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犀川の水利権水量 (B)
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2.52
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2.52
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2.52
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犀川の未取水量 (B−A)
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1.33
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1.38
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1.36
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(表2 金沢市末浄水場/犀川浄水場および県水の取水量、表3 毎年の7、8月の末/犀川浄水場および県水の取水量 を参照のこと。)
ダムの貯水量が逼迫する7、8月に着目すると、金沢市の上水が犀川に依存する水量は、1.14〜1.19m3/秒です。水利権水量2.52m3/秒との差が未取水量で1.33〜1.38m3/秒です。犀川で開発された上水量2.52m3/秒に対して、使用している上水は約1.2 m3/秒にしかすぎず、約1.3m3/秒の余剰があります。この余剰は前述したように需要が横這いのため、将来とも活用される見通しはありません。
さらに、水需要の停滞にも関わらず、県水の受水量を、現在の1.38m3/秒(119,000m3/日)から2015年の2.26m3/秒(195,000m3/日)まで、0.88m3/秒も拡大せざるを得ない状況にあります。したがって、今後、ますます水余りの状況にあります。
また、工業用水は犀川ダムが昭和40年に完成して開発されて以来、38年間、一滴も利用されていません。また、将来とも需要がありません。筆者が、平成13年に住民監査請求(別添資料1を参照のこと。)により、明らかにしたように、工業用水の需要量は減少する一方であり、工場で利用される地下水は、地盤沈下などの公害が懸念されない許容揚水量の半分程度となっており、地下水の余裕もあります。地下水は1m3あたり数円程度の電気代で用水を調達できます。一方、ダムで開発した水は1m3あたり50〜200円程度の費用がかかります。したがって高い料金の工業用水の需要はまったくありません。40年近く、未使用の上、住民監査結果による、「実態との乖離の是正」の指摘にもかかわらず、0.46m3/秒の水が放置されている状態です。
上水、工業用水あわせて、約1.8m3/秒(上水1.3m/秒、工業用水0.46m3/秒)の水が未活用で放置されています。ダム貯水量で約720万m3(上水510万m3、工業用水207万m3)が未活用です。これは内川ダム(810万m3)約1個分に相当する容量です。また、県が新規に必要と主張するダム容量にも相当します。
ちなみに、犀川で1m3/秒の水量を開発するためのダムの貯水量は以下のとおりです。
犀川の開発水量1m3/秒あたりのダム貯水容量
名目
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開発水量
|
ダム貯水容量
|
開発水量1m3あたりのダム貯水容量
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備考
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(m3/秒)
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(万m3)
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(万m3)
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工業用水
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0.46
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207
|
450
|
犀川ダム
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上水
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1.27
|
499
|
393
|
犀川ダム
|
上水
|
1.25
|
410
|
328
|
内川ダム
|
平均
|
|
|
390
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●質問6 犀川水系で不足する容量(農業用水の適正化を図ってもなお必要となる容量)として、235万トンを計上しています。県の解決方法は?
これを開発水量になおすと、0.6m3/秒程度であり、辰巳用水あるいは長坂用水の水量に相当します。県は解決方法として「新たな貯水容量が必要」と説明していますが、この調達のためにいくつかの簡単な方法があると考えられます。
【その1】犀川ダムで開発した工業用水を活用
開発水量は0.46m/3、ダム貯水容量207万トンです。昭和40年に開発されて以来、一滴も使用されていません。これを活用すれば費用ゼロです。
【その2】犀川/内川ダムで開発した上水を活用
約1.3m3/秒、ダム貯水容量にして約510万トンが余っています。これを活用すれば、費用ゼロで解決します。
【その3】かんがい用水の見直し基準年の見直し
昭和36年から平成13年の40年間でかんがい面積が1841haから663haに減少し(毎年30haの減少)、かんがい用水量が8.288m3/秒から5.620m3/秒に2.668m3/秒減少(毎年0.07m3/秒の減少)しました。このペースで減少すると9年後(平成22年)で0.6m3/秒のかんがい用水がさらに余ることになります。かんがい用水の見直し基準年を平成22年にすれば、水開発の必要はなくなります。
【その4】水路の改修
0.6m3/秒は5.620m3/秒の約10%。水路を改修して損失を少なくします。
【その5】既存の水利権の買収
見直した寺津用水のかんがい水量は0.643m3/秒です。これを買収する場合を考えてみます。この値段はいくらになるか? 買収額は毎年の米の収穫で得られる収入に相当するものと考え、水がなければ米による収入がゼロになるので、この収入が水の値段と考えます。
かんがい面積は58ha、単位収穫量6トン/年/ha、米価30万円/トン、農薬肥料のなどの費用15万円/トンとすると、年間の収入は、
58×6×(30−15)=5220万円/年
となります。犀川ダム、内川ダムの年間の維持管理および修繕費はそれぞれ、約1.6億円/年程度かかっています。水利権を買った方がダムの建設費は不要の上、年間の維持管理費よりも安価になります。
●質問7 金沢地方気象台における年間降水量が最近減少していることは理解できますが、犀川の流量に大きな影響を与える山間部の年間降水量はどのような傾向があるのでしょうか?
県は金沢地方気象台の年間降水量から最近の少雨化傾向を推定しています。犀川の流量を推定するにあたり、金沢地方気象台の影響のみをたよりに判断するのは正鵠を得ているとは思えません。
なぜなら、金沢地方気象台は都心部にあり、都市化現象の影響をまともに受けていると思われるからです。1970年前後からの高度経済成長によって都市内におけるエネルギー消費、これに伴う廃熱により都市の気象条件が大きく変わりました。ヒートアイランド現象、局地的な豪雨、冬季の積雪の減少などです。その影響による、年間降水量の減少が推測できます。50年来、当地に住む筆者にとって、冬季の積雪の減少は実感しています。
ところで、犀川の流量に大きな影響を及ぼしているのは、流域の過半をしめる山間部の年間降水量です。この山間部の年間降水量の推移が最も肝要と考えられますが、山間部の年間降水量の推移はどうなっているのでしょうか?
注:金沢地方気象台は、1991年10月まで弥生一丁目にあった。10月23日より、現在の西念三丁目に移転して観測を始めている。
以上
(添付資料)「金沢市職員措置請求書 金沢市長に関する措置請求」平成13年8月30日
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