上水道のページ ■辰巳ダム日誌
                          辰巳ダム日誌(2005年6月24日(金))

金沢大学工学部土木建設工学科 市民講座●金沢学の薦め――金沢の公共遺産を知る●

第1回 玉井信行教授 犀川と辰巳用水   ――犀川水系河川整備基本方針の考え方――

 金沢大学工学部主催の金沢の用水等についての「市民講座」が開催されるので、参加した。今日は、一回目で発起人の一人である玉井教授による話があった。内容は、講座開催の背景とそのきっかけとなった「犀川河川整備」の基本的な考えをまとめるに際して思考したことについてであった。

 


【講義の概要】
 2002年3月に東大を定年退職して、金沢大学教授(大学院自然科学研究科社会基盤工学専攻)になり、その年の10月から、県の犀川河川整備検討委員会委員長として、犀川の河川整備の基本的な考え方をまとめることをしてきた。2段階あり、まず河川整備基本方針の策定(おおよそ100年を目途)、つぎに河川整備計画(おおよそ30年を目途)を策定する段階である。河川整備基本方針策定の段階で、市民等外部の意見を取り入れて検討したのは、全国で犀川だけである。
 基本方針で決められた犀川大橋基準点における水量(既存ダム調整後)は、1460m3/秒であり、犀川大橋地点の現在の流下能力は1230m3/秒である。複数の代替案を検討した。要約すると、1460m3/秒を流すことができるように川を広げるか、それともこの負担を軽くするために上流でダムを造って流量を抑えて対応するか、選択を迫られた。この決定に際して、従来までのように単に、費用、工期などの土木技術的な判断だけでなく、その上位概念を想定して最終的な判断をした。従来の判断根拠は、論理学(水工学、設計基準等)だけであるが、これに倫理学(地域の歴史と伝統にもとづく判断、精神の健全さを示す)、美学(土地景観にもとづく判断、感覚の健全さを示す)を加えて、哲学としての「完成された河川計画」を考えた。
 河川計画は、治水、利水、河川環境の3つの座標軸から検討しなければならないが、これを費用等に換算して明確に優劣を決めることはできない。しかし、最適な結論を求められる。そこで決定のための新しい上位概念として思考したものである。
 この判断基準により、市街地の中心部に位置し、歴史と伝統を重んじ、川の拡幅の考えはとらず、上流で負荷を軽減する方法にした。さらに、上流での対策、ダムによる文化財の破壊を避けるために取水口の上流に位置させる結論を導いた。この提案を知事にして、知事もこの考えを実行することを明言した。
【筆者の感想】
 河川計画を決定する際に、単に土木技術的な判断だけでなく、倫理、美学の要素を判断基準に入れることは、一つの思考として理解できる。しかし、土木はもともと実学、つまり役に立ってどれだけの世界である。哲学があるのは望ましいとは思うが、基本はあくまでも実学である。この計画で100年確率の基本高水を決めた。1750m3/秒、これに対して実際の20世紀100年間の洪水量は半分程度の800〜900m3/秒程度である。哲学で決めた数値と実際の数値とは大きな開きがある。実体を無視して、観念で決めてもらっては、役に立たないものが出来上がり、200億円の出費が正当化されかねない。
 直感的には、治水ダムを正当化する論理を組み立てたというような気がした。犀川大橋地点を広げることができない、上流で対策が必要、数百年の歴史を持つ辰巳用水取水口を守らないといけないという要素を考えるとダムはその上流にということなる。治水あるいは利水施設を意識しすぎである。正当化するにはこのような話がいるのだろう。河川環境について考えれば、話は比較的簡単である。なぜ、植物、動物も考慮した河川環境をつくろうということになったのか、河川を魚釣りや散策などのレクレーションの環境として利用するようになったための必要から生じたものではないか、そのような環境を整備するのに、倫理学や美学の概念を持ち出すまでもなく、実学の世界で解決できる。解決できないのは、説得力のない治水や利水施設の正当化のためであり、このために持ち出した概念と言ったら言い過ぎだろうか?
 

 平成17年6月24日 中 登史紀


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【市民講座の案内】
案内は以下のとおりである。
金沢大学工学部土木建設工学科 市民講座
●金沢学の薦め――金沢の公共遺産を知る●
 金沢には、指定・未指定を問わず建造物などの多くの文化財が存在している。これらの文化財は公私協働のもとに保存や継承され、後世に伝えられてきた。金沢大学土木建設工学科では、歴史的に価値のある建造物や街並みに対して学術的な調査や研究を行っている。今回、これらの成果を公表するために一般市民、専門技術者および行政の方々に対して連続した公開市民講座を開講する。
場所:金沢大学サテライト・プラザ
対象者:一般市民、専門技術者、行政の関係者

開講日程
1.6/24(金)18:30−19:30 3階集会所
 第1回 玉井信行教授 犀川と辰巳用水
  ――犀川水系河川整備基本方針の考え方――

2.7/22(金)18:.30−20:00 3階集会所
 第2回 安達實非常勤講師 金沢の用水――今昔
 第3回 北浦勝教授 惣構堀の現状

3.8/26(金)18:30−19:30 2階講義室
 第4回 玉井信行教授 辰巳用水と兼六園
    ――金沢城 どれだけの水量を供給できるか

4.9/30(金)18:30−20:00 3階集会所
 第5回 池本敏和助手 金沢城石垣――石垣の現状と安全
 第6回 小林史彦講師 都市遺産としての用水・惣構堀

5.10/21(金)18:30−20:00 3階集会所
 第7回 川上光彦教授 金沢城下の都市計画
 第8回 玉井信行教授 惣構堀と雨――雨の排水

6.11/25(金)18:30−20:00 3階集会所
 第9回 北浦勝教授 長坂用水の法師隧道について
 第10階 玉井信行教授 兼六園の経済評価

入場無料
事前の申込は必要ありません。

問い合わせ等の連絡先
〒920-8667金沢市小立野2-40-20金沢大学工学部土木建設工学科
北浦勝(または池本敏和)
TEL:076-234-4654(4656)
FAX:076-234-4644
kitaura@t.kanazawa-u.ac.jp
tikemoto@t.kanazawa-u.ac.jp

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