意見書
――
辰巳ダム事業の費用対効果に関して――

                                                                          平成16年9月16日
石川県公共事業評価監視委員会委員長ならびに委員 殿

                                        意見書
                            ――辰巳ダム事業の費用対効果に関して――

                                                                    犀川の河川整備を考える会
                                                                          代表 中 登史紀
                                                                  (住所)金沢市小立野3−12−28

 平成16年7月29日に開催された平成16年度第1回石川県公共事業評価監視委員会において説明された犀川総合開発事業(辰巳ダム)の費用対効果は、当会で検討した結果、現実との乖離が著しく、看過することはできないので問題提起いたします。委員会において再検討され、石川県河川課にあらためて検討すべく指示されるようにお願い致します。
 なお、費用対効果根拠として石川県が作成した「辰巳ダム治水経済性検討資料」を行政情報公開請求によって平成16年8月19日に受領し、内容を確認しています。

●辰巳ダムによる効果が過大に見積もられており、実態と著しく乖離している。
 
 河川課が作成した「辰巳ダム治水経済性検討資料」の(表)辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額によると、辰巳ダムによる効果(年平均被害軽減期待額)を4869百万円注1)と見積もっています。この表注1)の辰巳ダム事業を実施しない場合の被害額から年平均被害額を求めると、8990百万円注3)となります。おおむね30年間で考えた被害規模(年平均被害軽減期待額)では5766百万円注4)です。これに対して、実際の被害(年水害被害額)は225百万円注2)にしかすぎません。

 20世紀の100年間で最大規模であった平成10年9月の台風7号の出水は、842m3/秒です。「辰巳ダム治水経済性検討資料」の想定被害額−流量曲線(辰巳ダムなし)で842m3/秒に対する想定被害額を読み取ると約160億円になります。実際の平成10年の年間総被害額(名目)で29億円にしか過ぎません。

 このように実態と著しい乖離があるのは、辰巳ダムによる効果を過大に見積もっているためであり、実態に適合した、適切な費用効果分析をあらためて行うべきです。

注1)河川課が作成した「辰巳ダム治水経済性検討資料」の辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額を(表1)として添付する。
注2)『水害統計』から求めた犀川流域の水害被害額を(表4)として添付する。実際の水害被害額は1971年から2000年までの30年間で6753百万円、毎年の平均水害被害額は225百万円となっています。
注3)辰巳ダム事業を実施しない場合の年平均被害額を算定したものを(表2表3)として添付する。辰巳ダム事業を実施しない場合の年平均被害額 8990百万円から、辰巳ダム事業を実施した場合の年平均被害額 4121百万円を差し引くと、辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額4869百万円となる。
注4)添付した(表2)による。


 また、「辰巳ダム治水経済性検討資料」の中で、「被害規模」、「被害額」、「ダム事業費」、「維持管理費」についても疑問がありますので追記します。
@今年7月の足羽川の氾濫規模に比較して浸水被害規模が大きすぎる
 足羽川の場合、毎秒2000m3前後(福井県河川課担当者の弁)の洪水が発生し、高さ3〜4m弱の土堤が決壊しました。これに対して犀川の場合、最狭部の上流に同様の土堤は存在しません。すべてアスファルトとコンクリートと覆われています。県の想定が正しいとしても流下能力を超す毎秒230m3が溢れるだけです。この洪水氾濫で福井市全体の被害(浸水戸数11,313戸)注5)と同じような被害(辰巳ダム無しで浸水戸数11,958戸)がでるのか疑問です。

A辰巳ダム無しの被害額(2,083億円)が同じ規模の福井豪雨被害額(487億円)注5)と比較して過大である
 仮に上記した、辰巳ダム無しの浸水戸数11,958戸が妥当であるとすれば、ほぼ同じ浸水戸数の福井豪雨の被害額487億円であるのに比較し、辰巳ダム無しの被害額2,083億円は大きすぎます。

B費用対効果の分母である辰巳ダム事業コストは一体いくらなのか?
 評価監視委員会では、「当初123億円だったものを見直して240億円」と県は説明しました。ところが、「辰巳ダム治水経済性検討資料」では、総費用額200億円(うち事業費184億円)とあります。費用対効果について平成10年の説明では、辰巳ダム建設コスト140億円としていました。
 辰巳ダム規模が小さくなり、機能も単純化している、デフレ状態が続いている、辰巳ダム建設コストが上昇する要因は少ないと考えられます。

C維持管理費コストが著しく小さい
 「辰巳ダム治水経済性検討資料」で維持管理費の総コスト(平成74年まで)を22億円と見込んでいます。平成24年の辰巳ダム完成時から以降は91百万円と固定し、割引率(利子率4%)を乗じて計算しています。利子率を考慮するならば、維持管理費も利子率相応の上昇を考慮するべきであるのにもかかわらず固定していては実態と大きな相違がでるのは明らかです。
 ちなみに、既存の犀川ダム、内川ダムの維持管理費は、平成6〜15年の10年間でそれぞれ、12.9億円、12.4億円です。注6)この数値と比較すると約20年弱にしか相当せず、明らかに過少です。 


注5)福井市の発表
 福井市は29日、福井豪雨による市内の被害額が計487億円に上り、このうち約6割の310億円は住宅の被害が占めるとする試算を発表した。 市災害対策本部のまとめでは、市内の住宅の被害は全壊22戸、半壊40戸、一部破損97戸、床上浸水3254戸、床下浸水8059戸で、県内全体の8割近くを占める。 住宅以外では、商工業関係61億円、農業用施設20億円、林業用施設16億円、道路・橋梁(きょうりょう)9億円、河川7億円、文教施設6億円などとなっている。国有、県有施設は除いている。
注6)表5として添付する。

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