【ニュース】熊本県の治水ダムで、違法/公金支出差し止め判決!

 天草市の路木(ろぎ)ダムは、ダム本体が完成して4月から運用開始の予定ですが、先月28日に熊本地方裁判所で判決言い渡しがあり、被告の行政(熊本県)が負けるという画期的な判決が下されました。この裁判は、ダム建設に反対する地元住民が熊本県知事に事業費の返還と今後の支出差し止めを求めた住民訴訟です。
裁判長は、知事の事業費返還請求については棄却したものの、「ダム建設計画は著しく妥当性を欠き、県知事の裁量権を逸脱、乱用したもので違法」と指摘し、住民側の訴えを一部認め、判決確定後の建設事業の差し止めを命じたものです。
 
 浸水被害があったとする天草市の調査結果を架空の洪水被害と指摘して治水の整備計画を河川法に違反して計画が策定されたと違法性を認定しました。
判決確定後の公金の差し止めを認めていますので、ここで確定とすると3月の公金差し止めとなり稼働に関わる費用の支出ができないので稼働できないということになりそうです。そうならないように、被告の県は必ず控訴することになると予想されます。原告は、主張を認めてもらった実質勝訴とも言えるものです。

 辰巳ダム裁判との比較では、治水行政にかかわる裁量権の逸脱濫用があって違法だと主張している点においては同じです。司法は、治水行政の裁量権の範囲を幅広く認めていますが、今回の判決では、法で想定した裁量権の範囲を超えて逸脱濫用があったと認めています。辰巳ダム裁判はどうでしょうか。

 辰巳ダム裁判の想定される判決結果は3とおり。
1.原告勝訴:事業認定の行政処分は違法と認めて取消
 原告(住民)の主張が認められ、原告勝訴。判決内容にもよりますが、被告(国)が控訴。
2.事業認定の行政処分は違法と認めるが、取り消すと公益が損なわれるので、処分取消を求める請求を棄却(事情判決※)
 原告(住民)の主張が認められているので実質原告勝訴といえますが、原告の求めた処分取消の請求は棄却されていますので原告敗訴。原告、被告双方が控訴をするケースが考えられます。
3.原告敗訴:事業認定の行政処分は適法と認めて処分取消を求める請求は棄却
 被告(国)の主張が認められ、原告敗訴。判決内容にもよりますが、原告(住民)が控訴。
 【別紙】想定される判決結果と控訴判断 を参照できます。

 路木ダムの場合は、行政の裁量権の逸脱濫用で違法と認めるが、住民の請求の一部は棄却するという点では、上記の第2項の「事情判決」※ に類似します。事情判決は、国が行った行政処分が行政の裁量権の逸脱濫用があり違法であった時には、裁判所はこれを取り消すことが原則ですが、用地を強制収用することのできた根拠である行政処分まで取り消してダムの撤去まで及ぶとなると公益を著しく損なうことになるので住民の請求は棄却するという、行政事件訴訟法上の制度です。

※ 事情判決(特別の事情による請求の棄却)の行政事件訴訟法第31条条文は以下のとおり。
第三十一条  取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。

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