近年の集中豪雨について
国は過大な想定降雨を正当化したいのか

 平成25年2月20日、金沢地方裁判所において行われた進行協議形式治水勉強会で、被告(国)は、準備書面での議論のほかに、「第4 近年の自然災害の状況について」を付け加えてプレゼンテーションを行った。最近、全国的に豪雨の発生が多くなり、石川県でもその傾向が強くなる中、平成20年7月には浅野川上流域で記録的な豪雨があった。3時間雨量140mm程度の雨はいつでも犀川で発生する可能性がある、辰巳ダム計画は妥当なものだと主張するようである。

 「第4 近年の自然災害の状況について」は、3項からなっており、(1)全国の豪雨の状況について、(2)全国の短時間豪雨の状況について、「(3)石川県の短時間豪雨の状況についてであるが、その主張が妥当かどうか検討する。被告のプレゼンテーションから関係箇所を別添で添付する(f1-)

 まず、
「(1)全国の豪雨の状況について」は、最近の豪雨について5例あげ、日雨量は140mmから872mmとなっている。昔から、大きい雨はいくらでもあるので、これをもって、近年、豪雨が増えたとは言い難い。
近隣では、44年前の昭和44年(1969)8月10日〜11日にかけて、富山県東部山岳地帯で連続雨量1000mmに達する豪雨があった。
 
「(2)全国の短時間豪雨の状況について、(3)石川県の短時間豪雨の状況について」では、最近10年間(H10〜H19)と20年前(S51〜S62)と比較して、大雨が増えていると説明している。時間50mmの大雨の頻度は全国では、約1.5倍になり、石川県では、約4倍にも増加していると説明する。
石川県の1時間降水量(50mm以上)の年間発生回数の推移は、以下のようであり、S51〜S62の年平均0.7回から、H10〜H19の年平均3.0回に増加している。
  S51〜S62 年平均0.7回
  S63〜H9    年平均0.8回
  H10〜H19 年平均3.0回

 この大雨の頻度が実際に犀川の洪水ピーク流量値に反映しているかどうかを「犀川下菊橋測水所流況表」で調べてみた。「下菊橋測水所流況表(年最大値のみ)」(f2-)の各期間の200m3/秒を超えるピーク流量は、以下のとおりである。
  S53〜S62 250m3/秒
  S63〜H9    220,242,302m3/秒
  H10〜H19 270,295,352,364m3/秒
  (注:S51,52の流量データはない。)

 1時間降水量(50mm以上)の年間発生回数をS51〜S62とS63〜H9で比較すると、ほとんど変わらないが、200m3/秒を超えるピーク流量が1データから3データと増えている。S63〜H9とH10〜H19の比較では、1時間降水量(50mm以上)の年間発生回数が著しく増加し、200m3/秒を超えるピーク流量も増えている。全体として、大雨の回数の増加につれて洪水ピーク流量も大きくなっている傾向がうかがえる。大雨の傾向が洪水ピーク流量の増大に反映しているようである。

 この傾向が100年確率推定値にどのような影響を与えるか検討してみる。犀川では、昭和53年から継続して流量観測が行われており、近年の洪水ピーク流量の増大がこれらのデータに反映している。S53からH19までの30年間の「下菊橋測水所流況表(年最大値のみ)」の正時ピーク流量データから、統計的分析して、100年確率推定値を求めた結果が以下のとおりである(甲第28−1号証「犀川の流量確率評価について(下菊橋測水所流量観測記録30年間)」による。)。
適合度を満足する確率分布が8つあり、推定値は362ないし476m3/秒。

 ただし、この推定値は、正時(しょうじ、一時ちょうど、二時ちょうどなどのように、分・秒の端数のつかない時刻。)データによるもので、つぎの計測までの1時間の間のピーク流量を計測していない。そのため、正時と任意のピークとの関係を知る必要がある。

 平成20年7月28日浅野川豪雨の例では、正時ピーク流量値は328m3/秒であり、任意ピーク流量値は433m3/秒である。比率にして1.32倍である。
また、「洪水調節図(犀川大橋基準点)」(f3-)から、正時と任意ではズレの最大を読み取ってみる。1時間間隔の間で、ピーク流量値は、最大で1.2倍程度のズレがあることがわかる。
これらを参考にすると、正時と任意のズレは1倍から最大1.3倍程度であることがわかる。

 正時ピーク流量値から求めた100年確率推定値を1.3倍して修正100年確率推定値を求めると、470ないし618m3/秒となる。これに対して、犀川大橋基準点の100年確率洪水ピーク流量は、1230m3/秒である。50%にしかならない。近年の豪雨による洪水ピーク流量のデータを入れて統計解析をしても、辰巳ダムなし状態(犀川ダム、内川ダムあり)で著しい余裕がある。
 そして、石川県での近年の豪雨の傾向はあるが、局所的な傾向が強く、犀川のような規模を持つ河川では、いまのところ、あまり大きな影響はないと判断できる。

(3)石川県の短時間豪雨の状況についてA平成20年浅野川豪雨 の項では、3時間雨量140mm以上の面積が235km2あり、犀川大橋上流域の面積が150km2だから、犀川でも3時間雨量140mmが発生する可能性は十分あり、辰巳ダム計画で3時間雨量142mmとしたことは妥当な計画であることを主張するようである。

 他で起きたから、ここでも起きるかもしれない、と単純に考えるのは、科学的ではない。国の説明からもそれは明らかである。3時間雨量140mm以上の面積を235km2としているが、犀川大橋上流域の面積150km2と同じ範囲では、3時間雨量160〜180mmにもなる。この範囲が犀川上流域に重なる可能性があると説明していることと同じである。そうなると、辰巳ダム計画は根本から見直さざるをえない。

 そもそも、専門家は、占い師ではないので、降るかもしれない、可能性があるということは、科学的な根拠をもとに主張しなければならない。地形や気象は地域固有のものであり、ほかで起きたからここでも起きるとはいえない。

 降るかもしれない、発生する可能性があるかもしれないという、単なる悲観的な話は、逆に、これに対抗する楽観的な話もまた、無数にある。例えば、既存2ダムの利水ダム容量を洪水調節容量として活用すればよい(実際に浅野川豪雨の際は両ダムとも利水ダム容量はほとんど空だった。)、犀川の堤防には1mの余裕高があるのでこれを利用すればより大きなピーク流量でも流すことが出来る、豪雨の際に山地があまり湿潤状態でなければ飽和雨量が大きくなり洪水ピーク流量が小さくなるかもしれない(実際100mmで計画しているが、平成10年の台風7号では飽和雨量150mmである。50mm大きくなるにつれて洪水ピーク流量は小さくなる。)、100年確率2日雨量314mmを超えるような豪雨があったとしても平成8年6月24日型であればピーク流量は711m3/秒に上乗せされるだけで大きな流量にはならないなどなど、際限はない。

 仮に科学的な根拠を構築して、3時間雨量160〜180mmにもなることを想定内とするのであれば、辰巳ダム一つではとても足りないということにもなる。

 ところで、この浅野川豪雨でどうなったか。浅野川中流域で堤防を越えて氾濫した。が、浅野川放水路がフルに機能を発揮しておれば、放水路下流の中流域では氾濫被害はほとんどなかったはずである。もともと浅野川洪水防御の切り札として、昭和49年に完成していたのである。放流される方の犀川では、大橋地点のピークで433m3/秒であり、100m3/秒程度の水量が増えても能力は1230m3/秒であり、十分すぎる余裕があった。さらに、上流の犀川ダム、内川ダムも空に近い状態で、洪水調節容量のほかに利水ダム容量も空いていた。つまり、浅野川豪雨が記録的な豪雨だったとはいえ、洪水防御は十分だったのである。
 2013.3.27,naka
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