飽和雨量の問題(犀川流域の保水能力)

 (辰巳ダム計画の飽和雨量)
 辰巳ダム裁判で、過大な基本高水ピーク流量が設定された要因は3つあり、@対象雨量 A棄却基準 B飽和雨量をあげている。基本高水ピーク流量を設定する際に、その候補としてピーク流量群を求めるが、実績雨量をもとに「貯留関数法」という算定式を用いている。前の@とAは、算定式の雨量データとなるものであり、残りのBは、算定式の定数である。@とAの雨量データは、その取り扱いの評価は比較的明解であるが、Bの飽和雨量については、重要な数値である割には、あいまいに決めている。
山地の保水能力に関係し、この飽和雨量を小さめに見込むと算定流量は大きく計算される。さらに、地表面が雨水で飽和するまでは50%が川へ流出し、飽和すると100%が流出すると仮定しているが、地表面が飽和しても地下への浸透がゼロになることはなく、雨水が100%流出することは現実には起こりえず、算定流量が過大になることを助長しているといわれる。
辰巳ダム計画ではわずか5ケースの降雨について検証して求め、求めた数値よりもさらに小さくし、飽和雨量は100mmとしている。その結果、山地の保水能力を低く評価して、ピーク流量群の全体を過大にしていることになる。

(八ッ場ダムでは)
 八ッ場ダムでは、飽和雨量が、戦後から年月が経過するとともに、31.77mm→65mm→115mm→125mmと大きくなっている。はげ山から緑豊かな山へ回復するにつれて保水力が拡大していることが確かめられている。

(犀川流域では)
 犀川流域ではどうだろうか。石川県が昭和17年から平成10年までの実績雨量から貯留関数法で最大流量を求めた一覧表(辰巳ダム裁判乙第30号証)(別添1)があるので、昭和53年から平成10年までの21年間は観測最大流量記と比較して山地の保水能力の変化が確かめることができないか調べてみた。
各降雨の生起日の観測最大流量は、下菊橋測水所の流況表(毎年の正時観測最大流量を掲載)(別添2)および流量報告書から求めている。犀川大橋地点における実績雨量から計算した最大流量(飽和雨量0mm)と観測最大流量(正時)の一覧が、「表1」(別添3)である。このうち、観測流量記録がある、昭和53年から平成10年までの21年間の29降雨の犀川大橋地点における、実績雨量から計算した最大流量(飽和雨量0mm)と観測最大流量(正時)の一覧が、「表2」(別添4)である。単位雨量あたりの最大流量が経年的にどのように変化するかを知るために、最大流量を実績2日雨量で割り算した数値を加えている。「2日雨量100mm当たり最大流量」と「2日雨量100mm当たり観測最大流量(正時)」である。

(最大流量の経年変化)
 昭和53年から平成10年までの21年間に発生した29降雨の犀川大橋地点における、2日雨量100mm当たり最大流量を「表3」(別添5)で示している。経年変化を確かめるためにグラフ化している。図中の近似直線が、2日雨量100mm当たり最大流量の経年変化を示している。ほぼ横ばいである。すべて飽和雨量0mm、つまり、山の地表面は飽和し、降った雨はすべて川へ流出するという仮定のもとで計算された結果であり、山地の保水能力の変化という要因は勘定に入っておらず、経年的に変化が見られないのは理屈通りである。
つぎの「表4」(別添6)は、2日雨量100mm当たり観測最大流量を示し、グラフは、その経年変化を近似曲線で表している。この直線もほぼ横ばいである。もし、山の保水能力が向上しているのであれば、単位降雨量あたりの流出量が減少して右肩下がりとなるはずであるが、その傾向は見られない。戦前および戦後に過剰な伐採のため山の荒廃が進んだようであるが、植林などの手当てが行き届いた昭和53年ころには、山の保水能力もかなり回復してその後の変化は少なかったのかもしれない。

(犀川流域の保水能力)
 山の保水能力の変化については確かめることはできなかったが、犀川流域の保水能力についての知見は得られた。「表5」(別添7)は、昭和53年から平成10年までの21年間に発生した29降雨の犀川大橋地点における、最大流量(飽和雨量0mm)と観測最大流量を示し、これを図にしたものである。折れ線は実績2日雨量を表し、平均は156mmである。棒グラフは、最大流量を表す。大きい棒は、最大流量(飽和雨量0mm)を表し、山地の地表面は飽和しすべてが流出する(例えると、山の表面をすべてアスファルトで固めたということ)と仮定した数値であり、平均で毎秒513立方メートルである。これに対して小さい棒は、観測最大流量を表し、平均毎秒130立方メートルである。前者に対する後者の割合は、27%となる。

 ただし、観測最大流量は、正時、つまり●●時ちょうどの時刻で観測された数値であり、任意ではないので、実際の最大流量を捕まえているとは限らない。石川県が作成した「洪水調節図」に加筆した図(別添8)の犀川大橋基準点流量から類推すると、1時間毎の観測の際に最も時機が悪く小さい数値を捕まえた場合は、ピークの流量の8割程度となる。この要素を入れて、前記した観測最大流量の平均値毎秒130立方メートルは、約毎秒160立方メートルとなり、最大流量(飽和雨量0mm)に対する割合は、30%程度となる。一般的に、合理式などの洪水流出モデルの定数で使用されている「山地の流出係数0.7」と比較するとかなり小さい。犀川流域の保水能力はかなり高いということである。
平成24年10月5日,中登史紀

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