辰巳ダムの代替案

辰巳ダムの代替案
 辰巳ダムの事業者である石川県は、辰巳ダムに代わる代替案のいずれもが費用が嵩むかあるいは技術的に採用できる案ではないなどと説明し、辰巳ダムが最良案であるということなっている。もっと簡単で目的を達成する方法はあるという市民の申し入れに対して、 県は、「これに対する苦情はいっさい受け付けません!」(^_^;)というほどの態度でもなかったが、木で鼻をくくったような答ばかりで(-_-;)、結局、裁判をやることになった。

代替案の比較検討
 裁判でも「代替案」が争点の一つである。県が検討した比較案では、ダム案のほかに8案ある。放水路案3案、遊水池案1案、河道改修案4案である。内容を見ると、河道改修案はともかく、その他の案はまったく馬鹿馬鹿しいものである。放水路案の事業費は、1300億円〜2900億円であり、辰巳ダム事業費240億円とは桁が違っている。
 比較検討一覧表 →クリック
 「犀川辰巳治水ダム建設事業 貯水池容量検討業務委託報告書2006-9」の治水対策案の検討箇所

比較検討する意味がない
 桁外れに違う案を横並びで検討する意味はない。参考に試算はすることがあっても代替になる可能性のないものを比較しても無意味なだけである。
 治水対策を行うのは洪水氾濫によって起きる被害をその治水対策によって防止する効果を期待して行うのであるから、どれだけメリットがあるかをあらかじめ想定する。辰巳ダムでは、メリットが735億円ということである(総便益という。)。240億円の事業費をかけて辰巳ダムを造れば735億円の洪水被害が防げるという理屈である。これに対して放水路案では、メリットが735億円しか無いにもかかわらず、対策に2900億円もかけるということになる。
 身近な住宅の耐震対策に例えてみると、守るべき住宅の価値が7350万円に対して、2億9000万円かけて耐震対策するようなものである。その馬鹿馬鹿しい限りである。

ところが事業者にとっては
 このような比較検討はたいへん重要な意味を持っている。県には多くの技術員をかかえているのだから、事業費の目算くらいはすぐできるので技術的に検討する意味はないことはわかっているが、別の目的がある。本命のダム案が最良案であることを際だたせるために並べているのである。納税者あるいは住民を欺く目くらましである。
 技術者がこんな意味のない技術的検討していては本当の技術検討はできなくなる。これは技術ではなく、知識のない素人をごまかす詐術である。この片棒を担いでいるのが行き掛かり行政の後押し学者たちである。
まともに比較できるのは河道改修案の4案だけである。 

河道改修案4案は
 河道改修4案のうち、河床掘削案(T教授によると、水流によって河道の安定性を確保することが困難で技術的に採用しない方がいいということなのでここでは除外。)を除いた3案の費用の大半は、犀川大橋前後の「新橋〜下菊橋」区間の約2kmの事業費が密集市街地を貫通していることによる費用434億円〜872億円である。この区間の改修が必要なければ、河道改修案3案はいずれも180億円ほどとなり、ダム案240億円よりも安価となる。

犀川大橋前後の「新橋〜下菊橋」区間の河道改修は不要である
石川県の想定した犀川大橋地点の洪水は毎秒1750立方メートルである。既存の2つのダムで調節した後の洪水は毎秒1460立方メートルないしは毎秒1540立方メートルである。後者は既存の2ダムの洪水調節容量を削減した場合である。
この両方のケースについて、石川県が行った犀川大橋地点前後の水位計算では、いずれの場合も堤防を溢れることはない。もっとも堤防の高さとの差が小さくなる地点が犀川大橋地点の上流200メートルのところであるが、そこでも左右両岸のいずれの堤防道路の高さよりも低い。両岸とも1m弱のコンクリート壁があるので1m程度の余裕がある。
 つまり、洪水が溢れないので辰巳ダムが要らないのである。
詳細は、パワーポイントファイル検証に代わる写真撮影報告書 平成21年7月28日、ワードファイル説明資料をみればわかる。
そのうちから、左岸の写真と右岸の写真を紹介する。
大橋上流200m地点の左岸 大橋上流200m地点の右岸

1230,1460,1540のときの水位が堤防の石垣にペンキで書き込んである。3年前のことなのでもう消えているかもしれないが?1540のときの水位になってもコンクリート壁天端まで1mほどあることがわかる。

県が改修を必要と主張する理由
 県がこの区間でどうしても流下能力がない、河道改修しなければならないと主張するのは、両岸のコンクリート壁が堤防でないからだということである。
つまり、コンクリート壁を考慮し、計画高水位(洪水のときの最も高くなる水位)を以前より高くすることは、@ダメージポテンシャル(潜在的洪水被害)が増大すること、A既往の計画高水位に基づいた河川管理がなされていること、B都市部の人口集中区間では現実的ではないこと、C洪水をできるだけ低い水位で流すという治水の大原則に反することをあげている。
 要するに、コンクリート壁では治水対策にならないということを主張しているのであるが、浅野川ではまったく同じ条件でありながらコンクリート壁を見込んで対策を完結させているのだから、二枚舌もいいところである。こんなことでだまされる市民も市民であるが。
 (正式の反論は、裁判の原告第23準備書面の代替案のところで。)


犀川の治水のネック
 おさらいをすると、犀川の治水のネックは犀川大橋地点である。北国街道という藩政時代からの往来があり、橋がかかっていたが、技術的な制約から犀川をここで狭めて架橋していたものである。密集した市街地でいまさら拡幅するのは困難と言うことで、洪水氾濫を防止するために、上流に治水ダムを2つもダムを造り、川底も切り下げたのである。

2つのダムと河道改修
 昭和40年に犀川ダム、昭和49年に内川ダムが完成、昭和47年から昭和53年にかけて、鞍月用水から大橋、新橋あたりまでの中流域の河道改修が行われて、この中流の区間は治水安全度が著しく向上した。その結果、昭和36年に片町一帯が浸水して大騒ぎになった第二室戸台風とほぼ同規模の降雨をもたらした平成10年9月台風7号では、高水敷き(平生、市民が散歩している芝生のところ)に少し水が溢れる程度にしかならなかった。

どうしてもと三つ目のダムを造ってしまった
 どうしても三つ目のダムが必要だという根拠として、想定洪水(基本高水ピーク流量)を見直して、有史以来発生したことの無いような洪水を想定した。それでも既にあるコンクリート壁をとらないと洪水氾濫がおきないということなのである。
河道改修では、180億円ほどに対して、240億円を要するダムを造ってしまったので少なくとも建設で60億円の無駄がでている。その上に、ダムは建設した後も未来永劫お金がかかる。

ダムは建設も維持も金食い虫
 既存のダムを参考にすれば、ダムの維持費は毎年1億円ほどで、老朽化すれば大規模修繕が必要となり毎年1億円合計2億円ほどもかかる。100年間で100億〜200億円かかり、ダムがもう一つ造ることと同じ費用がかかる。一方、河道の拡幅は簡単に言えば、堤防の位置を移動させるだけだから、維持費増加分はゼロと考えてもあまり違わない。だから、仮に建設費でダムと同等でも維持費を考慮すると断然、河道改修の方が納税者あるいは住民の負担が小さい。

辰巳ダムはゴロツキの面倒をみているようなもの
 その上、犀川渓谷の自然破壊もあり、辰巳用水取水口付近の文化的景観も毀損してしまった。ダム湖周辺はすっかり泥だらけである。堆砂も少なからずある。地すべりの危険もある。辰巳ダムの場合、何の役にも立たず、老朽化してその内、廃棄されるのだろうが、巨大なコンクリート廃棄物になるので廃棄するのも大変だ。
2012.6.11,naka

 

辰巳ダムのトップページへ