東京都境浄水場の緩速ろ過施設の見学記
期日:平成14年1月29日(火)午後1時〜3時
場所:東京都境浄水場(武蔵野市関前一丁目、JR中央線「武蔵境」駅下車徒歩10分)
案内者:流石氏および水質係員
見学者:中 登史紀
内容:日本で最大規模の緩速ろ過方式の浄水場である。
一般事項
所在地:〒180-0014 武蔵野市関前一丁目8-37
電話:0422-51-4505(事務系)8226(技術/水質) fax:0422-55-2701
敷地面積:21ha(約300m×約700m)
使用開始:大正13年
施設能力:日量31.5万m3
浄水方式:緩速ろ過
主要施設:
緩速ろ過池20池(総計有効面積92,600m2)
1池あたり有効面積4,630m2(86.67m x 54.24m x 深さ2.5−3.03m、ろ床厚920−1,516mm、ろ過速度4.0m/day)
配水池は和田堀給水所(約11km下流)
給水区域:千代田、渋谷、世田谷、港、目黒区など
境浄水場の全景
浄水量
東京都の浄水供給能力は現在、全体で日量696万m3である。この内、緩速ろ過施設は、境(31.5万m3)、砧(11.5万m3)、砧下(7万m3)の合計50万m3で全体に対して約7%である。
実際の給水量は、全体で日量456万m3(平成11年度一日平均配水量)である。境浄水場は、日量約5万m3である。場内の流入、流出管渠の改良工事中(境浄水場浄水渠撤去および浄水管(1800mm〜800mm)布設工事)のためである。
境浄水場の歴史
境浄水場は、第一期工事は大正13年に完成した。第二期工事は昭和8年に完成した。
原水の取水
多摩川の村山・山口貯水池を水源としている。羽村取水堰から、自然流下で導水されている。管径は2,900mmである。導水管のルートは現在、多摩湖自転車道として利用されている。
導水渠の出口
境浄水場の緩速ろ過施設の現状
20池のうち、半分だけが稼働。工事中のためである。また、砂の削り取り間隔を長くし、工事の妨げにならないように、ろ過速度を半分の2m/dayとしていた。
緩速ろ過池の外観
空の緩速ろ過池
調整池
1池はろ過池ではなく、調整池(No.5)として利用している。貯水池から浄水場まで約2時間かかる。過大、過小の流量の調節が難しいので、1池をその調節に利用している。
維持管理要員
約50名弱である。
砂の削り取り作業
砂の削り取りは、25日に1回くらい行い、削り取り厚は1.5cm程度ある。夏は藻類の発生などのため、17-18日に1回と短くなることもある。現在は水質がよいこともあり、40日に1回くらいである。
平成12年(2000年)より、砂の削り取り作業を機械化した。和歌山の菱農(リョウノウ、三菱系の企業)という会社が作った機械で、耕耘機を改良したものである。「削り取り機」と複数台の「運搬機」を組み合わせて作業する。それまでは、1池の削り取りのために約20人がまる一日かかっていたが、この機械の導入で人員は約半分の10人程度になり、朝からはじめて昼の3時ころには完了するように改善された。洗砂作業も含めて2日の作業である。
機械化した砂の削り取り作業は、「削り取り機」1台、「運搬機」4台で行う。「削り取り機」は削り取った砂をコンベアで後ろに併走している「運搬機」に送る。「運搬機」の荷台が満杯になると、つぎの「運搬機」に交代する。「運搬機」は、池外へ搬送するベルトコンベアー地点まで満載した砂を運ぶ。ダンプトラックと同じ方法で、ベルトコンベアへ砂を放出する。
境浄水場に導入された機械は、「削り取り機」が予備を入れて2台、「運搬機」は、予備1台を入れて5台である。
砂の削り取り作業
運搬機が排砂している様子
洗砂について
3段の連続回転式洗砂機によって洗砂している。洗砂能力は4-5m3/hr、洗浄水量は洗砂量の4倍である。場内に4箇所の洗砂場がある。
砂削り取り後の生物膜の復旧について
濁度や生物数を観測して水質を判断する。ろ過排水は流入側へ返送ポンプで循環させる。3〜4日で生物膜が回復するので給水を開始する。
砂の打ってがえし
砂の削り取りを繰り返し、ろ床厚が40cm程度になると補砂を行う。2年に1回程度である。削り取った砂層の端に1列の穴を掘り、新しい砂を入れる。新しい砂を入れた穴と平行に穴を掘り、掘った砂を新しい砂の上にかぶせる。できた穴にまた、新しい砂を入れるという作業を繰り返す。これを打ってがえし、あるいは切り返しと言っている。
ユスリカ発生によるトラブル
梅雨明けの7月から9月、天候によっては10月ころまでユスリカが発生する。対策としては、ユスリカのライフサイクルの調査などから、20-25日に1回、砂の削り取りをすると、効果がある。
各池ごとにユスリカを捕捉する蛍光灯をつけている。灯に引き寄せられてきたユスリカを扇風機でアミの中へ送り込むものである。一晩にアミ一杯とれる。
ユスリカトラップ
藻類の発生によるトラブル
水源が貯水池であるので、貯水池で発生する藻類が問題となる。
冬から春にかけて、珪藻類が問題となる。冬の貯水池は全体の水温が均一になり、生物密度も均一になる。深度による選択取水の効果が薄れる。藻類を含んだ原水がろ過池の閉塞を促進させる。珪藻類は、ガラス成分であるケイ酸質の固い殻でできているので、死んでも目詰まりの原因となる。
夏になると貯水池で藍藻類が発生する。カビ臭を発生する藻類が含まれるので問題となるが、緩速ろ過では生物膜で除去される。
夏になると藻が発生が多くなるので目詰まりしやすくなる。特に台風の後などで、ろ過池にどっと流れ込むことがある。
鉄・マンガンについて(mg/l)
原水の鉄0.07(0.03-0.2)→浄水の鉄0.00(0.00-0.03)
原水のマンガン0.01(0.004-0.024)→浄水のマンガン0.001(0.000-0.004)
水質の試験
毎日の水質の仕事は、気象関係(気温、降雨量など)の観測、原水/浄水/現在稼働している10池のうちの1池のろ過水の試験をしている。水温、濁度、色度、pH、電気伝導度(溶けているイオン量、電解不純物量をはかるもので、110前後、浄水の判断材料)、過マンガン酸消費量、残留塩素、臭気を計測している。1週間に一度、貯水池の水の臭気強度も計る。他に魚類監視、24時間の自動計測(濁度、pH、残留塩素、電気伝導度、水温)も行っている。
発生汚泥の処理
発生汚泥は東村山浄水場で処理している。
境浄水場浄水渠撤去および浄水管布設工事
耐震化見直しの一環である。大正13年に築造されたものであり、老朽化しているので撤去して管路を新設する。暗渠および開渠であった流入、流出渠をすべてダクタイル鋳鉄管とバルブに切り替える。これによって、遠隔操作で安全、確実、容易、正確に流量をコントロールできるようになる。
ろ過池の耐震化
特に補強することは考えていない。
カラストラップ
場内に2箇所設置されている。石原都知事の方針でゴミをあさるカラスの駆除が始まっている。屋根の真ん中の穴から入り込むと、60センチほどの長さの針金がたくさん、垂れ下がっているのでカラスは外へでることができなくなる。
以上、こちらの理解が不十分な点あるいは誤解についての文責はすべて筆者の中登史紀にある。ご指摘をいただければありがたい。