金沢市末浄水場の緩速ろ過施設の見学記
 
期日:平成13年9月4日(火)午後1時〜4時
場所:金沢市末浄水場(金沢市末町1番地)
見学者:中 登史紀
説明および案内者:岡島所長

金沢市の水道および末浄水場
 末浄水場は金沢城跡から東南(辰巳の方向)へ直線距離で約7kmのところに位置し、敷地面積は7ha(71,411m2)を有する。金沢市の水道が初めて開設された時に造られた浄水場である。
 創設水道事業は、昭和2年から昭和6年までの5年をかけて施行された。給水人口14万人を対象とし、1人1日平均給水量97g、1人1日最大給水量139gである。末浄水場の能力を表す1日最大給水量は19,500m3/日である。創設時の処理法式は緩速ろ過法であり、昭和6年(1931年)から給水を開始して以来70年の歴史を刻み、現在も健在であり、日量約2万m3の水をつくりだしている。
 昭和36年に始まる第三次拡張事業において、浄水能力65,000m3/日を持つ急速ろ過施設が併設された。水源である犀川ダムが完成した後、昭和40年に給水を開始している。現在、末浄水場は緩速ろ過と急速ろ過の両方式が併用されている。
 現在の市全体の給水能力は32.4万m3/日(県営水道11.9万m3/日、犀川浄水場10万m3/日、末浄水場10.5万m3/日であり内緩速ろ過は4万m3/日)を有し、末浄水場の浄水能力は全体の32%、緩速ろ過施設は12%を占めている。市全体の実際の平均給水量は約17万m3/日であり、緩速ろ過施設の実際の浄水量は約2万m3/日は、同じく12%を占めている。
 末浄水場の特徴は周辺の自然環境と合わせて景観美の優れた施設である。中でも緩速ろ過池の浄水井上屋は創設当時の原型をとどめており周囲の環境にとけ込むよう美観上の配慮がうかがえる。まもなく、以下の構造物が文化財建造物の登録がなされる予定である。
 一号〜三号緩速沈殿池(昭和5年)
 一号〜六号緩速ろ過池(昭和6年)
 緩速浄水集合井(昭和5年)
 緩速浄水ポンプ室(昭和7年)

写真:緩速ろ過池への道




末浄水場の水源と水質
 水源は末浄水場から南東の方向約10kmのところに位置する「二又貯水池(犀川ダム貯水池)」である。犀川の源流の水をせき止め、多目的ダムとして、昭和40年度に完成した。有効貯留容量1,195万m3のうち、上水道分として499万m3を確保し、日量11万m3の上水の水利権を有している。浄水ロスを除いた、上水給水量は10.5万m3である。
 流域内に人為的な汚染源は皆無である。源流域は冠雪期間が長く、比較的低い水温を保っている。犀川ダムの水は水温や標高の違いなどから、内川ダム(犀川ダムに比べて標高が約100m低い)に比較して藻類の発生が少ない。

緩速ろ過系の施設
(1) 沈殿池(緩速ろ過系)
 形状  (上部)L62.88m x B45.3m x H5.5-5.85m
     (下部)L50.16 x B32.58m x H5.5-5.85m
 面積     2,848m2/池
 有効水深  5.2m
 有効容量  11,700m3/池 x 3池 = 35,100m3

写真:沈殿池


(2) 緩速ろ過池
形状        L40.24m x B34.18m
有効寸法と面積 L39.39m x 33.33m = 1,313m2/池
標準ろ過速度   5m/日
ろ過能力      6,600m3/日/池 x 6池 = 4万m3/日
池数        7池(内予備池1池)

写真:緩速ろ過池と浄水井上屋


写真:越流管




(3)浄水井
形状   L3.0m x B2.7m x H4.0m
池数   7池

緩速ろ過系施設の維持管理
(1) 沈殿池(緩速ろ過系)
 流入原水の濁度が30以下であれば、凝集剤(PAC)は入れない。通常、濁度は5,6弱であり、ほとんど凝集剤を入れることはない。
 原水のpHが7.1〜7.2程度の場合、7.5〜7.6程度になるようにカセイソーダを注入してペーハー調整をしている。配水管内の腐食性を抑える(赤水の発生を抑える)ためである。
 緩速沈殿池は年1回、空にして掃除をする。エンジンポンプを使用して圧力をかけた水をホースの先につけたノズルから噴射して泥を洗い流す。汚泥は1.5km離れた犀川浄水場の汚泥処理施設まで圧送している。ちなみに急速ろ過系の沈殿池は年2回、排泥している。

(2) 緩速ろ過池
 過去30年ほどの間、改修なの工事はしていない。ただ、コンクリートの老化によるひび割れなどの補修のため、止水工事はしている。
 定期的な維持管理作業は、ろ過砂の削り取り作業である。削り取り回数は、90〜45日に一回。平成12年は27回(1池当たり4.5回/年、つまり80日に一回)。削り取り時期の判断の目安は、水頭差1mおよびろ過日数90日である。3ヶ月に1回の目安であるが、原水の濁り、藻類の発生、工事のための余裕などを考慮して削り取り回数を決めている。昔よりは長くなっている。原水の状況がわかること、高濁水に対する対応ができることなどがその理由である。
 削り取り厚さは、1.5cmくらい。20年ほど前から、近隣の土建屋さんに委託している。7〜8人で12時間弱かかる。この緩速ろ過施設での機械化は無理である。当初の設計から、あらかじめレールを配置しておく等のしかけが無いと無理であろうとのことであった。
 ろ過砂層厚は90cmである。削り取り作業を続けていく内にろ過砂層厚が次第に小さくなってくる。45cm厚まで薄くなると補砂をする。おおむね6年に1回くらいである。1池の補砂作業は4人程度の作業員で約1週間弱の工程である。

写真:補砂の様子


写真:補砂が完了



その他
 犀川ダム湖から原水を取水しているので時々、マンガン濃度が高くなる。湖底部の溶存酸素が不足し、還元状態になると、マンガンが溶けだしてくる。底部から取水している時期、あるいは湖水の循環が起きる時期に、原水のマンガン濃度が0.1〜0.2mg/lと高くなる場合がある。この場合には、マンガン砂で除去するか、あるいはろ過池の前に次亜塩素を注入してマンガンを不溶体の酸化マンガンとして沈殿除去する。

 系ごとに高感度濁度計を設置して浄水の濁度を監視している。緩速系、急速系ともに濁度0.1以下を確保している。これはクリプトスポリジウム対策である。

 緩速ろ過施設は耐震性診断で、耐震性に問題があると診断された。沈殿池、ろ過池等の緩速ろ過施設を地震に耐えられるように新たに造り直すのは困難である。
 コンクリート構造の老朽化の問題はあるが、地盤が堅いところであり、池自体はほとんど地中に埋まっており、地震時には土と同じように動くと考えれば応力も小さいのではないだろうか。また、池の内側から水圧もかかっている状態であれば外の土圧とつりあい、壁の応力も小さいような気もする。耐震性診断の内容を知りたいところである。

 耐震化のための一環として、新管理棟が既設の裏側に新築された。監視操作のためのコンピューター施設が収められた。

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