金沢市末浄水場の緩速ろ過施設の見学記(2)
期日:平成13年12月18日(火)午後9時〜12時
場所:金沢市末浄水場(金沢市末町1番地)
案内者:岡島所長
見学者:中 登史紀

 戦前はほとんど「緩速ろ過法」の浄水場がほとんどであったが、戦後はほとんどが「急速ろ過法」の浄水場に変わってしまった。末浄水場(以後、「末」という。)は「急速ろ過法」と「緩速ろ過法」を併用している、数少ない浄水場の一つである。緩速ろ過池を主として、前回と同様に、岡島所長に案内していただいた。前回(9月4日)は末浄水場全体と緩速ろ過システムを概観し、緩速ろ過池の「補砂作業(更正作業)」を見学した。今回は、緩速ろ過池の「ろ過砂削り取り作業」を見学した。


                                                 全体平面概略図

現在の水量
現在の1日当たりの金沢市上水道供給量は、「末」の急速ろ過4万トン、「末」の緩速ろ過1万トン、犀川浄水場4万トン、県水7万トン、合計16万トンくらいである。「末」の緩速ろ過池は現在、5池稼働しているので、緩速ろ過池の負荷は、約1.5m/m2/dayとなる。(一般的に2.5〜10m/m2/day)

ろ過砂削り取り作業
今回は6池のうちの1池、No.4の池で、広さは約1,300m2である。 No.4池はろ過抵抗が約1mになったので、削り取りが行われた。隣のNo.2のろ過抵抗を見ると、現在、約0.8mであった。まもなく、砂の削り取りが必要となる。
作業は、近くの建設会社へ委託している。作業チームは、作業員6人、監督1人の計7人である。各作業員は、シャベルで表面を1,2cm削り取り、削り取った砂を一定間隔で集める。数mおきに小さな山ができる。全面積を削り取った後、一輪車で運び、ベルトコンベアーで池の外へ搬出する。この生物ろ過膜を含んだ砂は砂置き場の一部へ保管される。ある程度、堆積すると、砂置き場の横に設置されている洗砂機械設備で洗浄され、補砂の材料として再生される。


                 ろ層表面の生物ろ過膜


                               砂削り取り作業


                             砂運搬作業

ろ過池の砂の上を歩くと、若干堅い感じのところと、フカフカした感じのところがある。小島博士によると、フカフカした感じで靴跡がつくくらいの柔らかさであるとのことである。砂粒子の隙間にシルトや粘土が詰まって固まるとその上を歩くと堅いという感じがするという。
朝8時頃から始めて12時にはまだ終わっていなかった。昼食後、あと1時間くらいで終わりそうであった。約5時間程度の作業である。1池1,300m2の作業量は、砂の削り取り作業は30人・時間(約4人・日)となる。1,000m2あたりに換算すると、23人・時間(約3人・日)である。
削り取り作業を行った後、通水する。通水後、約1日間は、ろ過した水を全量捨てる。ろ過機能が落ちているためである。
 砂の削り取り作業に人手がかかることが、緩速ろ過法の欠点と言われるが、機械化する工夫も行われている。東京の境浄水場(31万トン/日、4,600m2/池×20池)では、平成12年4月より、砂の削り取り作業が機械化された。隅の削り取りができないこと、削りすぎることなどが欠点である。


         東京都境浄水場に導入されたろ過砂削り取り機械(岡島所長提供)

補砂作業(更正作業、あるいは足し砂作業)について
東京都境浄水場では、2.5年に1回(先月、岡島所長が境浄水場を見学されたとのこと)。末浄水場、6年に1回(6池あり、1年に1池づつ補砂すれば、6年で1周りするので都合がよい)。補砂作業の際に、残った砂も全部取り除き、洗砂した、新しい砂を入れ替えることもある。砂利も揚げて下部のブロックやレンガの様子を確認する。壊れたところもあるので補修する。


       緩速ろ過池底部のろ層を支持しているコンクリートブロック


急速ろ過池底部のろ層を支持しているコンクリートブロック(逆洗のために孔が空いている)

緩速ろ過に適した原水
米国NRCの『安全な水道水の供給』によると、前処理なしの緩速ろ過に適した原水水質は
濁度:5NTU未満
藻類:クロロフィルaが5μg/l未満
鉄:0.3mg/l未満
マンガン:0.05mg/l未満
を推奨している。

濁度について
濁度が高いと生物膜の成長を阻害する。濁度が高いまま、ろ過するとろ層の内部までシルトや粘土粒子が侵入し、砂粒子間の隙間が閉塞し、ろ過機能を損なう。したがって、原水の濁度は年間を通じて5程度以下が推奨される。「末」では、時々、30を超えることがあり、薬品沈殿が必要になることもある。だが、その場合でも薬品を投入することは少ない。急速ろ過系統に余裕があり、緩速ろ過の処理量を急速ろ過系統へ振り向けることができるからである。緩速ろ過系統の生物膜を維持するために止めることはできないので少量を通過させることになる。

藻類について
藻類の濃度が高くなるとろ過池は急速に閉塞する。そのため、殺藻するため、薬品混和池で硫酸銅を投入することができるようになっている。しかし、ほとんど使ったことはない。「末」は犀川ダムを水源としており、藻類が5μg/l前後と少ないからである。(水温20度程度以下、BOD<0.5)
 一方、内川ダム(犀川浄水場の水源)では、水温が25度、BOD10mg/l、クロロフィルaが130μg/lにもなることがある。
なお、犀川ダムと内川ダム湖の水質検査は、春・夏・秋と年3回、都合により2回のときもある。

鉄、マンガンについて
水中に鉄やマンガンが多いと酸化のため、水中の酸素が消費され、生物膜のところで無酸素状態になる懸念がある。好気性状態で機能する生物膜が損なわれ、沈着していたマンガンや鉄が溶出する場合がある。マンガンの推奨値は、0.05mg/l未満である。犀川ダムでは、マンガンが大きい場合もときどきあるが、マンガンは通常、0.01以下である。湖底では0.1くらいのところもある。マンガンは、緩速ろ過池の生物膜のところで生物学的に酸化され、不溶性となり除去される。
鉄の推奨値は、0.3mg/l未満である。鉄は通常、0.03くらいであるが、0.5と大きい値もまれに見られる。マンガンと同様に、緩速ろ過池の生物膜のところで生物学的に酸化され、不溶性となり除去される。

緩速ろ過池の耐震化について
浄水場の耐震診断にもとづいて改良がおこなわれている。旧管理棟の裏に新管理棟が完成し、3階の中央監視施設は、今年の11月から稼働を始めた。耐震性を高めることを目的として造られた新管理棟がピロティ形式(1階の壁量が少ないの耐震性を高めるために骨組みが必要以上に強固にしなければならないのでは?)で、中央監視室が3階(心臓部は1階か2階がよいと思うが?)というのは、首尾一貫していないような気もする。設計者の意図を確認しないと不明だが。
 緩速ろ過池の構造物も老朽化し、改修する必要ありとの診断らしいが、どのような改修が必要か、検討中。東京都境浄水場では、池の構造がレンガづくりであったので、すべてコンクリート造に改修したとのことである。名古屋の鍋屋浄水場は流出管の布設替えはしたが、本体の耐震性を高めるための改修はしておらず、考えてもいないとのこと。「末」の緩速ろ過池の改良は検討中とのことである。
(筆者注:「末」の池は、コンクリート造であること、地盤が良好であること(切り土の上にある)、地中に埋まった池であり、両方から圧力がかかっており、地震の際も壁に大きな力が加わりにくいこと、仮にクラックが入ったりして使用できなくなっても急速ろ過に余裕があることなどから、改修の必要はないと考えられる。)


                    中央監視室内

平成13年12月18日
中 登史紀
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