ナチュラルシステムの分類

 

                                ナチュラルシステムの分類


本書では,ナチュラルシステムをつぎのように分類している.
1. 土壌処理法(soil-based system) 
1.1. かんがい法(land treatment system) 
1.1.1. 緩速浸透かんがい法(slow rate land treatment system(SR))
1.1.2. 急速浸透かんがい法(rapid infiltration land treatment system(RI))
1.1.3. 表面流下かんがい法(overland flow land treatment system(OF))
1.2. 地下浸透処理法(subsurface system)
2. 水生生物処理法(aquatic system)
2.1. 安定化池法(stabilization pond system)
2.2. 水生植物処理法(aquaculture systems, aquatic plant system,あるいは浮標植物処理法(floating plant treatment system))
2.3. 湿地法(wetland system) 
2.3.1. 自然湿地法(natural wetland system) 
2.3.2. 人工湿地法(constructed wetland system)
2.3.2.1. 自由水面方式(free water surface type(FWS))
2.3.2.2. 植栽ろ床方式(vegetated submerged bed type(VSB))

1. 土壌処理法(soil-based system) 
 土壌中に存在する微生物,小動物,植物などの生物の働きによる機能と土壌のもつ物理化学的な働きによる機能の両方を利用する下水処理法である. この土壌処理法は,大きく2つに分けることができる.かんがい法(land treatment system)と地下浸透処理法(subsurface system)である.

1.1. かんがい法(land treatment system) 
 land treatmentの定義は,Glossary,"Water and Wastewater Control Engineering,Third Edition"によると(以後,米国の上下水道用語辞典と呼ぶ.)―Irrigation with partially treated wastewater on land; additional treatment is provided by soil, microorganisms, and crops which are grown to utilize nutrients.であり,さらにirrigationの定義は,
―The artificial application of water to lands to meet the water needs of growing plants not met by rainfall.である.つまり,land treatment system は,植物の生育のために降雨だけでは不足する量に見合う処理水を土地へ人工的に供給する方法である.下水処理を目的とする場合,必ずしも植物を利用するわけではないが,行為の形態が同じであるので,かんがい法と翻訳する.
 さらに,かんがい法は土壌の浸透速度によって3つに分けることができる.土壌の浸透速度が小さい方法,大きい方法,粘性土など土の不透水性のため浸透があまり期待できない方法である.それぞれ,英語では slow rate land treatment system(SR),  rapid infiltration land treatment system(RI), overland flow land treatment system(OF)と表現されている.緩速浸透かんがい法,急速浸透かんがい法,表面流下かんがい法(土壌の浸透性に着目すると不浸透かんがい法となるが,英語を直訳する)である.あらためて列記すると

1.1.1. 緩速浸透かんがい法(slow rate land treatment system(SR))  
 うね溝などにより下水を供給し,低い負荷で地下へ浸透させるかんがい方法である
1.1.2. 急速浸透かんがい法(rapid infiltration land treatment system(RI)) 
うね溝などにより下水を供給し,高い負荷で地下へ浸透させるかんがい方法である.
1.1.3. 表面流下かんがい法(overland flow land treatment system(OF)) 
 不浸透性の土壌に用いられるもので,土壌表面と植生の働きによって処理するものである.

1.2. 地下浸透処理法(subsurface system) 
 し尿浄化槽の放流水を表層の地下へ浸透させる際に用いられる方法である.当マニュアルの第3章にある説明の通り,subsurface wastewater infiltration system(SWIS)あるいはsubsurface flow systemと呼ばれ,少量の下水に適しており下水処理のために地表下へかんがいする方法(subgrade land application system)の1種である.主として,地中への浸透を期待している方法であり,有孔管とその周囲に砂利などのろ材を詰め覆土した断面形状をしており,下水は有孔管からろ材を通過し,ろ材と土の接触面から浸透する構造である.これらの工夫は,下水が土の中へ連続的に浸透し閉塞が起こりにくいように考えられたものである.地中への浸透を主として期待した方法であるので,地下浸透処理法と称する.表層の土の地下に供給する仕方が,かんがい法とは違うが,浸透負荷量は緩速浸透かんがい法にほぼ重なっている.『水質環境工学』(技報堂出版)では,表面流れ式システムと訳しているが,この訳語はoverland flow systemとまぎらわしいので適当でないものと考える.

2. 水生生物処理法(aquatic system) 
 水生生物がつくる環境を利用して処理を行う方法であるので,水生生物処理法と訳す.この方法には,stabilization pond, aquatic systems with floating plants, wetland systemsの3法がある.

2.1. 安定化池法(stabilization pond system)
 安定化池法(『下水道用語集1988年版』(日本下水道協会)による.)は,藻類,微生物の働きにより,下水を安定化する下水処理法である.

2.2. 水生植物処理法(aquatic systems with floating plants, aquaculture systems, aquatic plant system)      
 浮漂植物処理法(floating plant treatment system)ともいい,ホテイアオイやアオウキクサ類などの浮漂水生植物を利用した下水処理法である.浮遊植物処理法ともいう.

2.3. 湿地法(wetland system) 
 湿地法は,自然の湿地を利用した自然湿地(natural wetland)と人工的に築造された人工湿地(constructed wetland)に分けることができる.さらに,人工湿地はつぎの2種類に分けることができる.

2.3.2.1. 自由水面方式(free water surface type(FWS))  
 ガマ類やホタルイ属などの抽水植物を繁茂させた湿地を自由水面をもった状態で流し,処理する方法である.

2.3.2.2. 植栽ろ床方式(vegetated submerged bed type(VSB)) 
礫材を敷きならべたろ床にガマ類などの抽水植物を繁茂させた湿地で下水を通過させることによって処理を行うものである.
次ページにナチュラルシステムに関する主な訳語の比較表を添付する.

(参考)
下水(wastewater): 家庭汚水に工場排水を含めた排水.
スクリーニング(screening): 下水中の粗大なごみなどをスクリーンによって除去するプロセスをいう,このプロセスで除去されたものをスクリーンかすという.
一次処理(primary treatment): 下水処理施設で最初に行われる主な処理で,ふつうは沈殿であり,浮遊物質がかなり除去されるが,コロイド状物質や溶解性物質はほとんど除去されない.
二次処理(secondary treatment): 一般に,BODとSSで85%の除去効率を持つ水準の処理と定義される,活性汚泥法に代表されるような生物処理の概念で用いられることもある,ふつうは生物処理工程の後の沈殿池と分離された汚泥の処理に適用される.
三次処理(tertiary treatment): 二次処理を超えた下水処理,ふつう,りんや窒素などの栄養塩の除去や浮遊物質の高率除去を含む.
高度下水処理(advanced waste treatment): 二次処理で達成することができる水準以上の処理を行うことができるすべての物理的,化学的,生物学的処理法.
機能向上型二次処理(advanced secondary): 米国では,二次処理をBODとSSで85%の除去効率を達成する処理法と定義しているが,これよりも高度な処理水を生じる処理を高度二次処理と称している,ただし,高度下水処理の水準よりも劣る.

 

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