金沢の洪水を考えるNo.18
【飽和雨量に関する一考察】
県は過去の最大出水を飽和雨量ゼロとして約1,200m3/秒と計算!
石川県では,平成14年10月以来、約半年にわたり、犀川水系河川整備基本方針をまとめるため、犀川水系河川整備検討委員会で議論が続けられてきた。筆者も傍聴者の一人として参加し、文書によって、委員会開催の都度、申入書、意見書、公開質問書などの形で考えを提起してきた。筆者の問題提起について若干の答えらしき報告はあるが、疑問についての議論がほとんどないままに委員会が進められ、6月10日には、早くも基本方針をまとめるための委員会開催となった。 「犀川水系河川整備検討委員会設置趣意」には、「委員会での議論を通じ、県民への十分な説明と理解を求めていきたい。」とある。治水に関して、筆者が提起した問題点について、わずかなコメントがあるだけである。十分な説明とは、ほど遠く、石川県の提示する案を全く理解できない状況である。 委員会および部会を構成する委員は、日本の河川行政をリードすべき、河川工学の学識者であるがほとんど有意な答えがない。県をおもんばかって説明できないのであれば、委員を辞退するべきであろう。実学としては機能不全状態である。 しかし、議論を通じて、治水に関して、問題が3点に集約できることがわかってきた.どうもこれは、日本全体の治水計画,ダムの根拠なるものの問題点のような気がする. その三点とは, ●飽和雨量というやっかいもの――貯留関数法の欠陥―― ●計画洪水量と実際の洪水量とのへだたり――実際の自然現象を捉えていない幼稚で乱暴な解析手法―― ●計画洪水量の決め方に誤り――簡単な推計法の重大な誤謬―― 一つ目の飽和雨量について考察してみた。 |
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(飽和雨量値によって基本高水;計画洪水量は全く違ったものになる!) 過去の最大の出水、800m3/秒前後であるが、 飽和雨量ゼロとして計算すると約1200m3/秒と約1.5倍にもなる(県の試算値)。 県は基本高水流量を1750m3/秒とした。 これは飽和雨量がゼロか?ゼロではなく、飽和雨量100mmである。 ゼロにすると、驚く無かれ、2000m3/秒以上になる。(-_-;) (県は過去の最大出水を飽和雨量ゼロとして約1,200m3/秒と計算!) 県は飽和雨量0mmとして、既往の最大洪水量を計算した。その結果、犀川大橋地点の過去の「最大流量」を約1,200m3/秒(昭和36年第二室戸台風時降雨)と推定した。 飽和雨量0mmというのは降った雨が全部、流出したということであり、地表面がコンクリートやアスファルトで塗りかためた状態と同じこと、雨が降り続き、地表面が完全に飽和状態になったことを意味する。実際はほとんどありえない。県の計算例からも、20〜190mm程度である。20mmは地表が飽和状態に近く湿潤していることを、190mmは地表が乾燥状態に近いことを表す。 それでは実際の地表面の湿潤状態はどのようであったのだろうか。洪水発生降雨以前の降雨から推測できるので、雨量データを収集して検討してみた。 検討は、県が「基準点における近年の最大流量推定値」を飽和雨量ゼロとして計算した、つぎの3ケース、 1961(S36)/09/16 1972(S47)/09/16 1998(H10)/09/22 比較するため、県が「桜橋(≒下菊橋)地点の飽和雨量」として試算した、つぎの5ケース、 1996(H08)/06/25 1978(S53)/06/27 1998(H10)/09/22 1991(H03)/07/12 1997(H09)/07/12 である。 降雨データは、金沢地方気象台のホームページの「電子閲覧室」 URL:http://www.data.kishou.go.jp/index56.htm によった。金沢地方気象台、医王山観測所の「1ヶ月の毎日の値」から、各発生降雨の過去2週間累計雨量値(mm)、過去4週間累計雨量値(mm)を求めた。 一覧表にまとめたものが「表−過去2,4週間の累積雨量と飽和雨量」である。 表 過去2,4週間の累積雨量と飽和雨量
県が飽和雨量ゼロとして計算した、昭和36年第二室戸台風時降雨の場合、金沢の過去2週間値83mm、4週間値148mmとかなり少ない。地表面が乾燥した状態が予想され、1996(H08)/06/25のケースに近く、飽和雨量は170mm程度が推測される。また、平成10年の台風7号1998(H10)/09/22のケースでは、県は飽和雨量ゼロとして試算したが、別の検討箇所では試算しており、130mmである。1978(S53)/06/27、1996(H08)/06/25のケースとも、金沢の過去2週間値、4週間値、飽和雨量が近似しており、よい相関関係があることがわかる。1972(S47)/09/16のケースの飽和雨量は、1998(H10)/09/22と1991(H03)/07/12の中間に位置すると考えれば、40-130mm程度だろう。 県が飽和雨量ゼロとして計算した3ケースにおいて、飽和雨量が前述した数値とすれば、出水量はかなり小さくなる。実際の出水量および出水量値試算値があるので、比較したものが、つぎの「表 21世紀の百年間に発生した大きな洪水量の推計値と出水量」である。 表 21世紀の百年間に発生した大きな洪水量の推計値と出水量 犀川大橋地点を基準点とした流量 単位:m3/秒
注1): 「犀川水系河川整備検討委員会第2回河川計画専門部会、治水計画検討資料」より。県は飽和雨量を0mmと仮定して求めた。 注2): 県は飽和雨量を100mmと推定し、計画値1,750m3/sを算定。 注3): 筆者が各観測地点のデータを重複分を除いて集計。ピークを単純に集計したので実際値はこれよりも小さい。 注4): 「昭和47年度起犀川中小河川改修事業全体計画書、犀川河川改修計画報告書、計画高水流量編」石川県、22頁による。 注5): 筆者の石川県河川課長宛「犀川の治水に関する申し入れ書」平成14年7月26日による。 注6): 24時間雨量199mm、金沢地方気象台観測史上第2位。 県が「基準点における近年の最大流量推定値」として計算した値と実際の出水量とが著しく相違していることがわかるであろう。昭和36年第二室戸台風時降雨1961(S36)/09/16の場合、1,200m3/秒の6割前後。平成10年台風7号1998(H10)/09/22のケースでは、約7割にしかすぎない。 ちなみに、県が基本高水流量とした1,750m3/秒が、実際に過去100年間に発生した最大流量と比較して如何に馬鹿でかいかがわかるであろう。 |
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