金沢の洪水を考えるNo.16
●計画洪水量と実際の洪水量とのへだたり
――実際の自然現象を捉えていない幼稚で乱暴な解析手法――
石川県では,平成14年10月以来、約半年にわたり、犀川水系河川整備基本方針をまとめるため、犀川水系河川整備検討委員会で議論が続けられてきた。筆者も傍聴者の一人として参加し、文書によって、委員会開催の都度、申入書、意見書、公開質問書などの形で考えを提起してきた。筆者の問題提起について若干の答えらしき報告はあるが、疑問についての議論がほとんどないままに委員会が進められ、6月10日には、早くも基本方針をまとめるための委員会開催となった。 「犀川水系河川整備検討委員会設置趣意」には、「委員会での議論を通じ、県民への十分な説明と理解を求めていきたい。」とある。治水に関して、筆者が提起した問題点について、わずかなコメントがあるだけである。十分な説明とは、ほど遠く、石川県の提示する案を全く理解できない状況である。 委員会および部会を構成する委員は、日本の河川行政をリードすべき、河川工学の学識者であるがほとんど有意な答えがない。県をおもんばかって説明できないのであれば、委員を辞退するべきであろう。実学としては機能不全状態である。 しかし、議論を通じて、治水に関して、問題が3点に集約できることがわかってきた.どうもこれは、日本全体の治水計画,ダムの根拠なるものの問題点のような気がする. その三点とは, ●飽和雨量というやっかいもの――貯留関数法の欠陥―― ●計画洪水量と実際の洪水量とのへだたり――実際の自然現象を捉えていない幼稚で乱暴な解析手法―― ●計画洪水量の決め方に誤り――簡単な推計法の重大な誤謬―― 二つ目の、計画洪水量と実際の洪水量とのへだたりについてである. |
(●計画洪水量と実際の洪水量とのへだたり――実際の自然現象を捉えていない幼稚で乱暴な解析手法――) 21世紀の過去100年間に発生した最大洪水量が800m3/秒前後である。県の計画した洪水量(基本高水流量)は1,750m3/秒である。違いが大きすぎる。計画が誤っているか、現実が誤っているか、誰が考えたって、計画値を算出した解析手法がおかしいに決まっている。 学識経験者の結論は、「犀川水系河川整備検討委員会河川計画専門部会報告」によると、 「既往の降雨の時系列(ハイエトグラフ)からRsa=0として「最大流量」を推定した結果は約1200m3/秒(昭和36年第二室戸台風時降雨)。この値は、上記の「基本高水」(案)のピーク流量値とは差があるが、これは「この流域では幸いなことにこれまで大洪水が出る降り方をしていないため」と判断した。」 (筆者注:県は最大洪水量のデータはないと主張し、数値を明らかにしていない。しかし、少なくとも平成10年9月台風7号の時の流量記録はある!) である。現実がおかしく、誤っていると結論づけているのと同じことだ。 実際は800m3/秒前後の出水量しかないのを、1200m3/秒に言い換え、さらに、基本高水との差を「幸運」で片づけようとしている。学識経験者に期待されているのは、予言者みたいな言動ではないだろう。 計画洪水量と実際の洪水量とのが大きくへだたる、最大の原因は、実際の自然現象を捉えていない幼稚で乱暴な手法によるためである。 降雨データを子細に検討するとわかってくることだが、犀川水系における大降雨は大別して2つある。 梅雨前線などの前線性のもの、6月〜7月にかけての長雨である。24〜48時間雨量が大きい。時間降雨強度は大きくても10〜30mm程度で比較的小さい。広範囲に一様にダラダラ降る。川の出水量はあまり大きくならない。平成8年6月25日の金沢の24時間雨量観測史上第二位199mm(時間最大値は18mm)のケースでも犀川大橋で346m3/秒(以下)であった。 もう一つは、台風性豪雨で、9月頃に発生する。降雨継続時間は12時間程度と短いが、時間降雨強度が50-70mmと大きくなる。急速に移動するので時間的、空間的に降雨が偏る。降雨波形は中央で高いピラミッド型となる。河川に大出水をもたらすことが多い。平成10年9月22日台風7号による出水は記録的で842m3/秒(以下)に達した。24時間雨量は158mm(金沢)、167mm(犀川ダム)だが、8割以上の雨は12時間に集中。時間最大雨量は44mm(金沢)、55mm(犀川ダム)であった。 県の解析手法は、大出水をもたらす台風型の降雨を排除している。48時間雨量150mm以上の降雨を選択したところまでは、台風型は留まっている。ところが、314mmへ約2倍に引き伸ばしたところで排除されてしまう。なぜなら、台風型は12時間程度の短い時間で150mm程度の大きな雨になるので、48時間かけて150mm降る、一様型の雨とでは密度が4倍も異なる。同じように2倍に引き伸ばすと、台風型は後者の一様型に比べて4倍も高い山ができることになる。この山が高い(犀川大橋地点3時間雨量が142mmを超えると)と異常値として棄却される。棄却されるもともとの理由は48時間雨量を基準にしたためである。台風型降雨がもともと異常値であるわけではない。 台風型を排除した上で、前線型に小型台風(低気圧)を加味したような降雨、ダラダラと広範囲に降るが、3,4時間は30〜40mmくらい継続する雨を見つけてくる。この3,4時間が重要である。犀川大橋地点で理屈上、最も大きな出水になるケースは、150km2の流域に一様に60〜80mmの雨を3時間程度、降らせた場合に発生する。台風型でもなく、前線型でもない、このような雨は現実には起こらない。ところが、県の解析はこのようなケースを創るために、膨大な資料と非現実的な仮定の上に構築している。 それが、平成15年6月28日型の雨である。2日雨量で156.6mmであるが、実際の出水量は210m3/秒である。仮に2倍にしても400m3/秒、洪水とは無縁の降雨である。こんな雨を根拠に基本高水を決めている。 まとめると、2日雨量で2倍すれば、密度の高い雨となる台風型はみな、はじきとばされる。空間変動、時間変動の大きな台風を排除して、時間変動、空間変動の少ない、前線性中央突起型降雨を2倍することで、台風の特徴を持つ前線性中央突起型降雨という怪物を創っている。 このような幼稚で乱暴な解析でいいわけがない! |
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