辰巳ダムは違法だ!
目次 1.工事実施基本計画無しの辰巳ダムは違法だ! 2.好ましくはないが違法ではない 3.「定めるべき時期についての規定がない」ので「違法ではない」 4.藤田工学博士の考え 5.国会での議論 6.石川県の反省 |
1.工事実施基本計画無しの辰巳ダムは違法だ!
辰巳ダム計画関係の行政文書の情報公開を求める過程で、渡辺寛氏は、今まで見過ごされてきた法的観点から「辰巳ダム計画が違法だ!」と指摘した。「自然環境への影響」、「文化財の破壊」、「土木技術的に有用性がない」などの問題は指摘されてきたが、「違法なダム計画ではないか?」と法的な問題点を指摘したのは、氏が初めてである。 氏が情報公開窓口を通じて入手した「犀川水系工事実施基本計画の資料」によると、工事実施基本計画等の手続きはつぎのようであった。
工事実施基本計画申請 平成1年3月8日
同 認可 平成2年7月10日
辰巳ダム 計 画 申請 平成1年12月5日
同 認可 平成3年2月5日
一方、県作成パンフレット『辰巳ダムと辰巳用水』には「1983年(昭和58年)辰巳ダム建設事業が公共事業に採択」とあり、「市民との意見交換会」等でも「1983(昭和58)年に着工したこと」を認めている。
「工事実施基本計画」および「辰巳ダム計画」の申請、認可の前に、辰巳ダム工事が着手されているということになる。「工事実施基本計画」などの手続きは形式的なもので、後でやればよいものなのであろうか?
氏は指摘する。河川法(法律第百六十七号,昭和40年4月1日施行)による(工事実施基本計画)に関する規定、十六条の一項では、「河川管理者は、その管理する河川について、計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項(以下「工事実施基本計画」という。)を定めておかなければならない。」とあり、二項に「工事実施基本計画は、………その水系に係る河川の総合的管理が確保できるように定めなければならない。」とある。したがって、河川管理者は管理する河川について総合的な管理が確保できるように工事着手に先立って工事実施基本計画を策定しなければならないはずだ!さらに、「工事実施基本計画も辰巳ダム計画も建設大臣認可を受けているというが、そうなると、建設省が違法行為に荷担しているということにもなるのではないか?」と指摘する。
2.好ましくはないが違法ではない
工事実施基本計画無しの辰巳ダム計画が違法であるのか、違法でないのか。この疑問に対して、石川県は、市民との「意見交換会」で「好ましくはないが違法ではない」という回答を繰り返した。どういう意味だ? 法律の条文に合っていなければ、好ましくないのは当たり前であり、そんなことは誰も聞いていないし、答にもなっていない。違法か違法でないかを聞いているのであるから。「好ましくはないが」はあっても無くてもどうでもよい、単なる枕言葉であり、この枕言葉を除けば、単に「違法ではない」と言っているわけである。どうして違法ではないのかとの問いに対して、理由を答えていないので答になっていない。
3.「定めるべき時期についての規定がない」ので「違法ではない」
この問題に関して、今年(1999年)2月の石川県議会で川上賢二議員が知事並びに関係者に質問している。「石川県議会のホームページ」(http://www.pref.ishikawa.jp/gikai/)の中の「会議録の閲覧」できる。3月12日の質疑の中で川上議員はつぎのように質問している。
「…… 第二点は、犀川の治水事業の法的問題についてであります。河川法第十六条では、「河川管理者は、その管理する河川について計画高水流量その他当該河川の河川工事及び河川の維持についての基本となるべき事項を定めなければならない」とされています。現在「河川整備基本方針」と呼ばれていますが、法改正前は「工事実施基本計画」と呼ばれていました。
犀川については、一九八九年三月八日に知事から建設大臣あてに犀川水系工事実施基本計画(案)が提出され、一九九〇年七月十日に認可されています。また、一九八九年十二月五日に県から建設大臣あてに辰巳ダム建設事業全体計画認可申請書が出され、一九九一年二月五日に認可されています。
一方、公共事業評価監視委員会に出された資料では──他の文書も全部そうですが──辰巳ダムの建設着手年度を一九八三年度としています。実際、一九八三年度から建設費が支出されています。しかし、一九九〇年七月十日以前には犀川水系工事実施基本計画は存在していませんから、八三度から九〇年七月十日まで、辰巳ダムは法律上の要件を満たさないまま工事が続けられていたのではないかという疑問が出てきます。また、河川法第七十九条第二項第二号に基づく辰巳ダムの建設事業全体計画は一九九一年二月五日に建設大臣によって認可されていますから、それ以前のダム建設は建設大臣の認可なしに行われていたのではないかという疑問が出てきます。ここからいろんな問題が出てきます。そこで、質問します。
第一、一九八三年度から九〇年七月十日までの間、辰巳ダムは前提となる「犀川水系工事実施基本計画」が存在しないまま、違法な状態で工事が続けられていたことになるがどうか。違法状態でなかったというのであれば、その根拠を示していただきたいと思います。
第二、どのような理由で一九八三年度辰巳ダムが着工されて以後六年もの間、基本計画は作成されなかったのか。着工当時から基本計画が存在しないことはわかっていたのか。それとも後から気がついて申請したのか。いずれでしょうか。
第三、辰巳ダムの建設事業全体計画が建設大臣によって認可される一九九一年二月五日までは大臣の許可がないまま工事が続けられていたのですか。……
」
この質問に対して、中島土木部長は、つぎのように答弁している。
「河川法第十六条では、河川管理者は、いわゆる工事実施基本計画を定めなければならないと規定をしておるわけでございますが、この工事実施基本計画を定めるべき時期についての規定や、これを定めないで行う河川工事は禁止するといった規定はないわけでございます。
従来から、河川工事の緊急性によりまして、まま工事実施基本計画の大臣認可の前に事業が行われることはございまして、こういったことに対しまして建設省は、こういった工事実施基本計画がない状態での河川工事の施行は望ましい姿ではないが、違法ではないというふうにしております。」
工事実施基本計画なしの辰巳ダムについての石川県の判断は、
「定めるべき時期についての規定がない。」
「定めないで行う河川工事を禁止する規定がない。」
という2つの理由で、「違法ではない。」ということである。
基本計画が河川工事の前にするのは道理で、定めるべき時期を規定するとすれば、「河川工事の前に基本計画をたてる」ことになる。工事実施基本計画の策定時期が河川工事の前ということが決めてあれば、「定めないで行う河川工事を禁止する」規定がなくても禁止することを意味するから、当然ながら禁止する規定も不要ということになる。つまり、「定めるべき時期についての規定がない。」という理由が、石川県が「違法ではない」と判断する理由であろう。
「定めるべき時期についての規定がない。」というが、河川法の工事実施基本計画に関する規定を再確認する。河川法の第十六条一項はつぎのようである。
十六条 河川管理者は、その管理する河川について、計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項(以下「工事実施基本計画」という。)を定めておかなければならない。
「計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項」が「工事実施基本計画」であり、「その管理する河川について工事実施基本計画を定めておかなければならない。」とある。つまり「河川工事の実施について工事実施基本計画を定めておかなければならない」とも読める。ということは、実施する前に計画を定めなさいということである。当たり前のことである。にもかかわらず、「これを定める時期についての規定がない。」と主張するのであれば、河川工事を実施した後で「河川工事の実施についての基本となるべき事項」を決めるということになる。言い換えると、「ダムを造った後でダムの大きさ(規模)を決める」という馬鹿げたことになる。
4.藤田工学博士の考え
自分の論理がおかしいかどうか検討する意味で、行政担当者ではない、治水学者の考えを見てみる。平成11年8月17日の石川県公共事業評価監視委員会で委員に配布された「犀川水系辰巳ダム治水計画に関する所見」(平成11年8月岐阜大学工学部工学博士藤田裕一郎)(以下「所見」という。)の中の記述を見てみよう。「所見」の1頁から2頁にかけてつぎのようにある。
2.治水計画について2.1 治水の考え方と工事実施基本計画の意義a) 水に浸らない安全な場所をたまたま(歴史的に・社会的に)運よく確保できた人々が、そうでない人々に「50年に、あるいは20年に1回のことだから浸水被害を我慢しろ。」と言って素知らぬ顔をきめこむことが同じ国民として許されることとは考えられない。自然災害に対してできるだけ同程度の安全性が確保されることが、現代では、社会生活成立の最も共通的な基盤の一つであり、これが治水事業が公的に実施される根拠となっている。b) 一般に、河川計画は、治水(通常洪水防御)計画、利水(水資源)計画、さらに、新(現)河川法では環境管理計画の3者の整合性を保ったものであることが要求されているが、それらの計画は相反する側面を有しているためにその調整は困難な作業となる。3者の中でも、住民の生命と財産の保全に直結する治水安全度の確保が優先されるのは、人類の立てる計画である以上、当然のことではあるのだが、水系一貫の観点で、このような対立する利害のバランスを考慮・調整し、基本高水等、治水・利水計画の基本事項を検討・決定することが前河川法における工事実施基本計画の意義となる。 c) したがって、工事実施基本計画策定のためには、自然的条件と社会的情勢の変化を見極める必要性があって、複雑な対立があったり、土地条件が悪く社会経済的に厳しい状況にある場合にはこの策定に長い時が費やされる場合がある。しかしながら、見極めがつかないからといって手を拱いて治水事業を放置しておくわけにはいかない。洪水は明日にでもやってくるかもしれないのだから。工事実施基本計画が策定できた場合に齟齬を来さないよう、十分な配慮を払いながら事業計画を進めていくことも実際には要求されている。策定時期についての規定が「前」河川法に明記されていないのは、この辺の事情が背景になっていると考えられる。「工事実施基本計画なしの河川管理がありえない」ことにはならず、「工事実施基本計画を全く念頭に置いていない河川管理はありえない」ことであって、これは、工事実施基本計画の策定に至るまで、十分な検討を行うための時間的な猶予を考慮したものであるともいえよう。 d) 実際、河川を取り巻く自然的・社会的環境が厳しければ厳しいほど、工事実施基本計画を策定するための検討事項は多くなり、それに割くことのできる人的能力の限界もあって、それに至るまでかなりの長時日が必要とされる。この場合、重要度の高い河川が優先されるのもやむを得ない状況であり、また、総合的な観点で金沢市の治水を考慮されてきたからこそ、浅野川の治水として放水路が掘削され、内川ダムが建設されたものであって、「前」河川法16条の精神に則った整合性のある河川事業展開といえる。
藤田工学博士の主張は、「工事実施基本計画の策定にあたっては様々な問題や条件があって時間がかかる。しかし、治水はほって置くわけにいかないから、河川工事を先行してもいいのだ。」という主張である。!?「工事実施基本計画」の意味を理解しておられないらしい。「計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項」が「工事実施基本計画」である。「計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項」が決まっていなければ、河川工事(辰巳ダム)ができるわけがない。
辰巳ダム計画に関して、時の経過をたどってみる(県作成のパンフレットより)。
昭和49年(1974) 辰巳ダム建設可能性調査
昭和53年(1978)ころ 計画高水流量などの基本となるべき事項を決めた?(なぜならば、県の計画では昭和52年までのデータで決定しているため)
昭和58年(1983) 辰巳ダム建設事業が公共事業に採択
平成元年(1989) 工事実施基本計画を建設省へ申請
辰巳ダム計画における降雨量のデータが昭和52年までのものを採用しているので、昭和53年ころには形ができて、昭和58年には「計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項」が決まっていたはずである。どうして、事業をスタートした後、6年も経過した平成元年になってから「工事実施基本計画」を申請したのだろうか?
藤田工学博士は、つぎのように述べて県の対応を支持している。
「工事実施基本計画策定のためには、自然条件と社会的情勢の変化を見極める必要性があって、複雑な対立があったり、土地条件が悪く社会経済的に厳しい状況にある場合にはこの策定に長い時が費やされる場合がある。」とある。しかしながら、このような事情で「計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項」が決まらないのに、どうして、「辰巳ダム建設事業が公共事業に採択」されるのか、よくわからない。基本事項が決まっていたにもかかわらず、申請しなかったのか。あるいは、実際に基本となるべき事項が決まっておらず、その後、6年の間に決まったので、申請したのか。そうであるならば、どんな要件がどのような解決により、基本となるべき事項が決まったのか?それが、すでにスタートしている辰巳ダム建設事業との齟齬が発生しなかったのか、県の正確な説明がなければ、やむ得ないと判断できないであろう。どこまで、藤田工学博士は事情をご存じなのであろうか? また、県はこれらの点について、県民にわかりやすく説明する必要があるであろう。
「人的能力の限界もあって、……」という理由で、「河川工事の実施についての基本となるべき事項」を決めずに、「辰巳ダム建設事業」をスタートさせることが「河川法の精神に則った整合性のある河川事業展開といえる。」とも思えない。藤田工学博士の論理はどうもよくわからない。
5.国会での議論
それでは、今までこのようがことが問題となり、議論されたことはないのだろうか。建設省自体はどのように考えているのだろうか。古くは、下筌ダムの裁判で審議された。そして最近では、長良川河口堰事業で問題として取り上げられたという。1988年に着工された長良川河口堰事業では、7年間前後、工事実施基本計画がなかったという。北川環境庁長官(当時)が、1992年の閣僚懇談会でこのことを国土庁長官に質したけれども、国土庁長官は返答しなかった。北川氏は、92年12月に国会の決算委員会でこの問題を質問した。国土庁は「3月までに回答する」としながら回答を遅らせ、94年にやっと回答した。「2000年完成予定の徳山ダムと長良川河口堰の貯水量は、2000年の水需要予測に対応したものである。」という頓珍漢な回答だったそうである。国会の場では「違法でない」と反論できないまま終わっているそうである。答弁不能でも「違法と認めたわけではない」ということになるらしい。
答弁不能ということは、限りなく違法状態であったということだろう。法律の専門家によると、行政法理論的には基本計画は各事業の発動要件であり、基本計画がなければ各事業はやってはいけないのだそうである。
6.石川県の反省
辰巳ダムは、6年間のあいだ、限りなく黒に近い違法状態にあったことは間違いない。
そもそも、昭和39年の河川法の改正でできた規定は、個々の事業が個別に実施されると、水系全体の河川の総合的な管理の整合性が取れず、齟齬をきたために加えられたものであり、それまでのさまざまな失敗の経験の上で、加えられた考えである。当然のことながら、河川工事のスタートの前に策定されるべきものであり、河川工事の後に策定されるというのであれば、以前と同じような失敗を繰り返すことになる。急がばまわれであり、策定が最優先されるのは「法の精神」から見て当然のことであろう。石川県も、「意見交換会」などの機会を通じて、反省の弁がうかがわれた。そして、「意見交換会」の最中、1999年5月9日、地元新聞で報道された。いわく、
「全60水系で整備基本方針 県作成へ 住民の意見も反映」
河川法(法律第百六十七号,昭和39年7月10日官報による.昭和40年4月1日施行.「旧河川法」明治29年法律第七十一号は廃止する.)
第二節 河川工事等
(工事実施基本計画)
十六条 河川管理者は、その管理する河川について、計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項(以下「工事実施基本計画」という。)を定めておかなければならない。
2 工事実施基本計画は、水害発生の状況並びに水資源の利用の現況及び開発を考慮し、かつ、国土総合開発計画との調整を図って、政令で定める準則に従い、水系ごとに、その水系に係る河川の総合的管理が確保できるように定めなければならない。
3 河川管理者は、工事実施基本計画を定めるに当たっては、降雨量、地形、地質その他の事情によりしばしば洪水による災害が発生している区域につき、災害の発生を防止し、又は災害を軽減するために必要な措置を講ずるように特に配慮しなければならない。
4 建設大臣は、工事実施基本計画を定めようとするときは、あらかじめ、河川審議会の意見をきかなければならない。
北国新聞 1999年5月9日 |
【関係資料】
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■「河川法」より抜粋
(法律第167号,昭和39年7月10日官報による。昭和40年4月1日施行。旧河川
法」明治29年法律第71号は廃止する.)
第二節 河川工事等
(工事実施基本計画)
第十六条 河川管理者は、その管理する河川について、計画高水流量その他当該河川
の河川工事の実施についての基本となるべき事項(以下「工事実施基本計画」とい
う。)を定めておかなければならない。
2 工事実施基本計画は、水害発生の状況並びに水資源の利用の現況及び開発を考慮
し、かつ、国土総合開発計画との調整を図って、政令で定める準則に従い、水系ご
とに、その水系に係る河川の総合的管理が確保できるように定めなければならな
い。
3 河川管理者は、工事実施基本計画を定めるに当たっては、降雨量、地形、地質そ
の他の事情によりしばしば洪水による災害が発生している区域につき、災害の発生
を防止し、又は災害を軽減するために必要な措置を講ずるように特に配慮しなけれ
ばならない。
4 建設大臣は、工事実施基本計画を定めようとするときは、あらかじめ、河川審議
会の意見をきかなければならない。
■「逐条河川法」より抜粋
(建設省新河川法研究会編、株式会社港出版社刊、昭和41年9月30日発行)
序文より(建設省河川局長 古賀雷四郎)
……このたび新河川法研究会の諸君の手によって、河川法の全条文にわたる詳細な
解説書がつくられたことはまことに時宜を得たものであり、喜びに堪えないところで
ある。これらの諸君は、河川法の立案に従事し、あるいは現にその解釈運用に当たっ
ている人達であって、その解説については最適任の人達である。……
第16条(工事実施基本計画)の解説より
河川工事は、河川の流水によって生ずる公利を増進し、公害を除去、軽減するため
河川について行われる工事で、河川管理の一態様である(法8条)。河川管理は、第
1条に明らかなとおり、公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを究
極の目的として、河川について、洪水、高潮等による災害の発生を防止し、その適正
な利用と流水の正常な機能の維持を図るため、これを総合的に管理することである。
河川工事は、河川管理の重要な部分を占め、したがって、その実施は、これらの諸点
を総合した基本的な計画に基づいて実施されなければならない。本条は、河川管理者
に、かかる河川工事の実施の基本計画の作成義務を課し、その作成に当たり配慮すべ
き事項及び作成手続きを規定している。
1 水害発生の防止及び既存の水資源の利用関係の確保は、河川工事の目的の一部で
あって、工事実施基本計画作成の際これらは当然考慮されるべきものである。水資
源の開発についても、ダム、河口堰、湖沼水位調節施設等の築造によって、特定の
者のためではなく、一般的に将来の利用関係の増進を図ることは河川工事の領域で
あり、また、河川については種々の利水事業の計画が存し、又は将来立案されるこ
とが予想されるので、これらを工事実施基本計画の立案に際して考慮することが要
請されているのである。
なお、水資源開発促進法に基づき、水資源開発水系が指定され、当該水系につい
て、水資源開発基本計画が決定されることとされており、工事実施基本計画の策定
に当たっては、当然これら既定の水資源開発基本計画が考慮されなければならない
が、既定計画の存在しない場合でも、当該指定のあった水系の水資源の開発につい
ては、工事実施基本計画の立案に際し特に配慮すべきであろう。
2 (略。国土総合開発計画について)
3 工事実施基本計画の作成の準則として、河川法施行令第十条第一項は、次の二点
を示している。
(1) 洪水、高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する事項については、過去
の主要な洪水、高潮等及びこれらによる災害の発生の状況並びに災害の発生を防
止すべき地域の気象、地形、地質、開発の状況等を総合的に考慮すること。
(2) 河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する事項については、流水
の占用、舟運、漁業、観光、流水の清潔の保持、塩害の防止、河口の閉塞の防
止、
河川管理施設の保護、地下水位の維持等を総合的に考慮すること。
4 工事実施基本計画は、河川別、河川管理者別に定められるのではなく、水系ごと
に、その水系に係わる河川の総合的な管理が確保できるように定めなければならな
い。河川は、有機的に結合して水系をなしているのであって、河川に関する計画に
おいては、1の水系に係る河川が全体としては対象にされなければならないのであ
る。…(略)…本法が新しい河川管理制度を設けた目的の一つは、水系を一貫した
河川の管理にあり、工事実施基本計画の策定は、これを達成する重要な手段の一つ
である。
5 第3項は、河川管理者が工事実施基本計画を定めるに当たっては、いわゆる水害
常襲地域に対する冷水対策について特に配慮しなければならない旨定めたものであ
る。
6 (略。一級河川に係るもの)
7 河川法施行令第十条第二項は、本条の実施政令として、次のとおり工事実施基本
計画に定めるべき事項を明らかにしている。
(1) 当該水系に係る河川の総合的な保全と利用に関する基本方針
(2) 河川工事の実施の基本となるべき計画に関する次の事項
(イ) 基本高水(洪水防御に関する計画の基本となる洪水をいう。)並びに河道及
び
洪水調節ダムへの配分
(ロ) 主要な地点における計画高水流量
(ハ) 主要な地点における流水の正常な機能を維持するために必要な流量
(3) 河川工事の実施に関する事項
(イ) 主要な地点における河道計画に関する重要な事項
(ロ) 主要な河川工事の目的、種類及び施行の場所並びにこれにより設置される主
要な河川管理施設の機能の概要
8、9 (略。許認可について)
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