「読書」:要点と感想
『PFI 公共投資の新手法』
日本総合研究所 井熊均、(四六版230頁)
日刊工業新聞社、定価:1,800円
内容:公共事業へ市場メカニズム導入について

要約:
公的な事業分野に官から民への流れを大胆に取り込むことによって行財政改革の一助となるだけでなく、公共事業を中心とした日本的な構造の改革にメスを入れ、さらには新たな産業の創出に資することのできるPFIの可能性を問う。

求められる公的事業の新たな仕組み
 公に決められた仕様と価格表にしたがって業務の発注額が決まる。三つの問題がある。一つは、各種施設の仕様の決定過程において結果的に事業上の利益団体となる受注業者の意向が反映される構造がある。固定的な仕様に基づく、原価積み上げ方式の二つ目の問題は、価格の決定方式が市場メカニズムに即していない。三つ目は、仕様を固定することにより、受注者側の創意工夫の機会を奪うということである。
 こうした公共主導による公共事業を通じた産業育成は、国が発展する途上の段階では有効であったが、国がある程度成熟してきた段階では、結局大きなコストとなって跳ね返ってきている。我々は、多くの金融機関の経営破綻で、高い授業料を払って市場メカニズムの中における旧来型の産業政策の限界を十分に学んだはずである。この高い授業料を、金融ビッグバンの次に来るであろうといわれている公共事業分野での産業に関するビッグバンのための対策に活かしていかなくてはならない。
公共工事の主流を占めてきた原価積み上げ方式が民間企業の健全な育成を阻害するだけでなく、地方自治体の独立性も奪っている。省庁主導により策定された全国統一の公共施設の仕様に則り施設の建設が行われる。
 二つの重要な改革;@最終的に求められる基本的な性能と、その性能を満たすための責任の所在を明確にし、それ以外は民間企業の裁量に任せると言った、性能発注方式である。その際の施設建設のプロジェクトマネージメントもアウトソーシングが大前提である。A公共事業で造られる施設の運営を民間企業の手にゆだね、民間側から施設の運営に関するニーズを施設の設計仕様に反映できるような仕組みを創り上げること。

PFI(Private Finance Initiative)とは何か
 従来公共部門により行われていた公共サービスを、民間企業の資金やノウハウを導入することにより実施しようとする事業方式の名称である。1980年代初頭のサッチャー政権の下で、規制緩和や民営化、公共部門の業務のアウトソーシングが進められた。その一環として、公共事業への民間資金の導入方式が取り入れられた。効率的(Cost-effective)に実施されること、導入した民間資金分だけ公共事業予算を削減するという二つの原則が示され、ライリールールと呼んでいる。
さらに、PPP(Public and Private Partnership)という、官と民のパートナーシップによる社会サービスの提供のための枠組みへと進化していこうとしている。
PFI事業類型と内容
BOT(Build Operate Transfer):事業会社が施設を建設し、一定期間所有・運営した後、公共側に譲渡するもの。社会インフラ建設のための公的資金が不足しがちな途上国を中心として、数多く用いられている。
BOO(Build Operate Own):事業会社が施設を建設した後、公共側に譲渡することなく所有・運営するもの。
BTO(Build Transfer Operate):施設の完成後、公共側に譲渡し、事業会社は施設の所有権を得てその運営を行うもの。
BOS(Build Operate Sell):施設の完成の直後、ないしは一定期間後、公共側に施設を売却し、リースを受けて運営を行うもの。
BMT(Build Maintenance Transfer):施設の完成後、公共側に施設をリースし、メンテナンスを行うもの。
五つのポリシー:@公開(市場)メカニズムの最も基本的な論理)A公平(既得権社会からの脱皮)B競争(競争の制御、フリーハンド)C自己責任D民間論理
 PFIが創造すべき事業:@事業運営ビジネスA建設マネージメントビジネスB監査・コンサルティングビジネスCファイナンスビジネス
プロジェクトファイナンスは通常採算があうのは、百億円単位といわれる。
PFIの分類:公共投資の肩代わり型、公共サービス移転型、独立民間事業型
PFI事業の民間企業から見たメリット:事業の安定性、ニーズの継続性、政策面での支援体制、新規参入余地

なぜ第三セクターは失敗したか:運営に関する誤解、財務上の不整合、市場ニーズ設定の甘さ、収支構造上の幻想、民間企業の事業感覚の喪失、、、があげられるが、要約するとつぎのようになる。
公共機関は収益を気にせずに公共目的を追求できることから、一般に民間企業に比べて公益性の発揮という面においては、優れた資質を有していると考えられる(民間企業と癒着が無いことが前提。)。これに民間のノウハウを加えることによって第三セクターが効率的に実施できるはずであった。しかし、民間の活力ある事業展開を行う民間企業のノウハウは、事業上成果が上がらなければ市場で淘汰されるといった、競争社会での危機感を背景として始めて発揮されるものである。民間企業の人を連れてくれば、民間の事業ノウハウが発揮されると思ったことに、まず事業運営上のつまづきの第一歩があった。そして、非効率(公共側の人材の受け入れ機関になっていること)、無責任(官民の役割分担が不明瞭)が重なった。
エージェンシー(独立行政法人):政府の業務執行部門を分離独立した機関。機関の長は、政策的な指示のみを所管大臣から受け、基本文書に記された目的に沿って、以下を前提として自主的に活動する。
@取り決め、責任、目標、評価を明確にする。Aコストと成果及び目標の達成度を国民に明示する。B目標達成のためのインセンティブを高める。C結果を重視し、柔軟な業務管理を行う。D機関の長は、体質改善と効率性の向上のためにリーダーシップを発揮する。
公団:経済政策上の要請を充足させることを目的として、全額公的出資により設立される政府関係の特殊法人の一種。経済政策の能率的実施を目指す。各公団には、総裁、副総裁、理事、監事が置かれ、主務大臣の監督に服し、役員と職員は公務員法の適用を受ける。組織は法人化された行政機関の性格を持ち、適当な経営上の自主性が与えられる。

日本型PFIのビジョン
Private Finance InitiativeのInitiativeは、先導、率先、主導権などの意味があり、直訳すると、民間資本主導ということである。民営化の発端は、公共財政の逼迫に伴う民間資本の導入という公共主導論理に発しているものであるが、英国の成功は、公共中心から官民協働へ進化したからである。
日本でのPFIが目指す産業創造:環境、福祉、医療、教育、文化等、国民生活の質的の向上のために重要な事業が数多く存在する。成長分野であり、民間事業者による産業として育成されることが望まれている。事業の効率性が将来の日本経済に与える影響が大きく、民間への移転による効率化が不可欠である。
日本でPFIを進め、民間企業を積極的に参入させて、ここに内需型の産業を創出しようとした場合に、もう一つ大きな問題となるのが、許認可の多さ、裁量行政、縦割り行政によるリスクである。
PFI推進機構の必要性:事業に関係する資格の供与や許認可を円滑に進めるため。裁量行政の屋上屋でない力のある機構と指標の客観化と市場指向である。

PFIが日本を変える
地方主導のボトムアップ型の施策とそれを支援する法律改正を軸とした中央主導の取り組みが車の両輪となることが、地方主権の実現のためには必要なのである。
補助金や地方交付金を軸とした中央集権型の公共財政システムは、全国での画一的な地域整備が必要であった時代には、整備される施設の質を一定以上に保ち、施設整備において落ちこぼれる自治体を救い、地方自治体の財政状況を破綻から救う上で重要な役割を担ってきたことは事実であろう。旧来型のシステムの役割は終わった。
公共工事は経済的な非効率性に加えて既得権により政治の適正な判断を阻んでいる最も代表的な事例。これを改革すると言うことは、単に公共工事に関する費用が削減され、公共財政が好転する、といった以上の意味を持つのである。
PFIの普及は公共事業の構造改革に大きな影響を及ぼす可能性を有している。民間事業者の自由度を確保する性能発注方式が普及していけば、財投や補助金の供与に関する中央主導による仕様上の管理が大きく削減され、地方と中央の交渉の必要性は低下する。省庁からの補助金を受けるために過剰な努力を払う必要がなくなると、自治体は事業の監視や事情の計画といった、自治体本来の役割を重視した活動が可能となる。
事前予防方式の問題点:画一的な仕様を作ったり、免許制で民間業者を縛ったりする事前予防方式は、一見安心なように見えて実は大きな問題をはらんでいる。問題がないことを前提につくったシステムであるから、問題が発生しても当局が認めたがらず、明らかにされることが遅れる傾向が強い。問題が無いように事前に押さえ込もうとする傾向でより高コストで拘束力の強いシステムになる。このため、時を経るにつれて仕様が高価になっていった過程からも明らかである。

感想・ポイント:
 英国のエージェンシー(独立行政法人)は効率的と考えられているが、日本の公団などの特殊法人は非効率な事業運営の典型とされている。英国の「PFI」が行財政改革の成功例であるのに対して、類似の「民活法」下の官民協働の「第三セクター」がほとんど失敗している。しくみをつくっても運営がまずければ成功しない。"仏をつくって魂入れず"である。これからの日本のPFI導入に際して、「第三セクター」の失敗の経験を十分に咀嚼する必要があろう。
 行政は、しくみをつくり、そのしくみの改善をする等に注力し、極力、民間にまかせるべきだろう。行政の過度の保護や介入が民間の活力を阻害する。
PFIと取りたてて特別視するまでもなく、社会インフラを民間の資金で整備することは昔からあった。北陸の例(BOT)では、佐藤助九郎(現佐藤工業創業者)が、自費で、橋のなかった手取川に初めて橋を架けた例が有名である。北国街道が手取川と交差する、寺井の粟生村で、明治21年(1888)10月に完成させている。県から許可を受け、償還期限を決め、工費は人馬車の渡橋賃の収入をあてて回収した。
                    平成13年12月30日
中 登史紀

参考
「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法」1986年に制定、略して「民活法」。
IRR:内部収益率。事業に投下した資金の現在価値の総和と、事業から回収した現金の総和が等しくなるような割引率のこと。

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